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酢造りに「一意専心」

齋造酢店店主 齋正浩氏

2012年4月3日付 中外日報(この道を往く)

いつき・まさひろ氏=昭和39年6月、京都市生まれ。同志社大学商学部卒業。齋造酢店8代目店主の父・太一郎氏が2月に死去し、9代目店主に就いた。
酢造りに「一意専心」齋正浩氏

人類が造った最古の調味料といわれる酢。近年は健康ブームの中で酢の効用が注目され、酢を含んだ飲み物や健康食品をよく目にするようになった。都が置かれ、食文化が発達した京都では、酢は料理にかかせない調味料として古来使われ、酒や豆腐造りにも生かされる良質な水が銘酢を育んできた。

京都の多くの料亭や寿司店で愛用され、"縁の下の力持ち"として京料理の味を引き立てるブランド「花菱酢」もその一つだ。醸造元は築200年になる町家に蔵を構える中京区六角油小路東入ルの齋造酢店。9代目店主の齋正浩氏(47)に酢造りへの思いを聞いた。

(聞き手=飯川道弘)

店の創業は。

はっきりとした年号は分からないのですが、150年ほど前から調味料関係の製造・小売りを始め、先々代ごろから酢専門の店になりました。

家はもともと伊勢神宮の神主をしていました。「斎宮」の齋(斎の旧字)の字を名字にもらって京都に出てきたのです。滋賀県湖南市の斎神社はその時に分かれた先祖が仕えてきたと聞いています。主力商品の花菱酢の名前は家紋の「花菱」から取りました。伊勢神宮の神紋も同じ花菱です。

お得意先は京都の料亭さん、寿司屋さんを中心に大阪や滋賀のお店も含め千軒ほどあります。業務用ですので市販はほとんどしていません。一般の方には直接、お店に来ていただくか、地方の方には発送しています。

京都のお酢屋さんは以前は10軒ぐらいありましたが、今は5軒ほどが頑張ってやっています。

一般に市販されている酢との違いは。

一年の中では季節によって人の味覚、舌の感じ方は微妙に変わってきます。夏は汗をかいて塩分が失われがちになりますから塩を多めにするとか、その時の味覚に合わせて材料の分量などをコントロールします。このあたりが大量生産するメーカーさんとの一番の違いでしょうか。

原材料は基本的に変わりませんが、蔵の菌の状態は温度や湿度によって大きく左右されます。エアコンなどは一切使えませんから、微妙な出来具合の違いを管理しながら、瓶1本のお酢が出来上がるまでに3カ月くらいの時間をかけています。

料理の中で酢は表に出ない存在です。控えめだが主張はしっかりしている。そんな味になればと思っています。とりわけ得意先に寿司屋さんが多いですから、酸度が高めのまろやかな味を目指しています。

寿司屋さんに酢が利かないといわれては話にならない。京都で有名な鯖寿司などは特にそうです。酢は時間がたつと酸度が抜けていきますから、翌日にもしっかり酸っぱさが残るようにしています。

造られる酢の種類は。

米で造る米酢、酒粕を主原料にした粕酢、リンゴ果汁がベースのりんご酢などですが、料理・寿司全般に使われる米酢が7、8割になります。

いま販売に力を入れているのが「花菱味ぽん酢」です。徳島県上勝町特産のかんきつ類であるユズ、スダチ、ユコウと花菱酢を使い、地元の農協で生産してもらっています。先代の父が研究し農協とタイアップして25年ほど前に売り出しました。

ぽん酢は以前は冬の鍋料理が主な用途でしたが、今はヘルシー志向でサラダに焼き肉にとさまざまな料理で使われ、一年中需要がありますね。おかげさまで口コミなどでじわじわと売れ出し、月平均で千本くらい出ています。京都では知る人ぞ知るぽん酢ではないでしょうか。

健康ブームで酢を飲む人も増えているのでは。

黒酢ブームなどがありましたね。酢はアルカリ性食品で飲むに越したことはありませんが、酢そのものを飲むのはむせたりして続かないと思います。やはり料理に使って食欲を増進させるのが一番の酢の効果だと思います。特に夏場はそうですね。

酢造りの道に進むのを決めたのはいつごろですか。

家が店でしたから、自然とそういう流れになりましたね。大学を出てすぐに家業を継ぎました。酢造りは先代の下で体で覚えていきました。店には醸造だけに携わる職人はいません。6人の従業員誰もが営業も含め何でもできるようにしています。

先代は79歳で亡くなる直前まで仕事をしていました。8代目を継いだのは35歳のころ。それ以前から店の仕事をしていますから、50年以上、商売一徹の人でした。お客様第一主義で「得意先には人一倍気を使え」と口酸っぱく言われました。

「一意専心」という言葉もよく聞きました。酢造り一筋に懸けた先代の思いをしっかり受け継いで、私どもが頑張らねばと思っているところです。脇目も振らず真面目にまっすぐやっていきたいと思います。

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販売は一升瓶1本から。花菱味ぽん酢2625円、米酢840円。齋造酢店=電話075(221)5393。