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工芸はものづくりの原点

学校法人二本松学院・京都美術工芸大学理事長 新谷秀一氏

2012年5月1日付 中外日報(この道を往く)

しんたに・ひでかず氏=昭和15年生まれ。北摂ミサワホーム社長を経て平成2年、学校法人二本松学院理事長に就任。学院は翌年、京都国際建築技術専門学校を開校した。7年、京都伝統工芸産業支援センター理事長に就任。センターの支援で学院は京都伝統工芸専門学校を開校した。学院傘下の両校は19年、それぞれ京都建築大学校、京都伝統工芸大学校に移管。学院は今春新たに京都美術工芸大学を開学した。
工芸はものづくりの原点新谷秀一氏

全国で唯一「工芸学部」を持つ大学が京都府南丹市に開学した。日本の自然、風土、文化に培われた工芸を体系的に学ぶ京都美術工芸大学だ。工芸学部には伝統工芸学科が置かれ、学生は伝統工芸、文化財修理、伝統建築、工芸デザインの4コースに分かれて実践的に専門知識・技術を学ぶ。

同学は京都伝統工芸大学校(以下、大学校)、京都建築大学校と共に学校法人二本松学院により運営される。3校はJR園部駅前に甲子園球場約16倍の広さのキャンパスに校舎を構え学園都市の中核を担う。

平成2年の二本松学院の創設から悲願の大学開学まで、理事長として同学院を牽引してきたのが新谷秀一氏である。後継者育成、販路拡大などの課題を抱える伝統産業界にあって大学開学が業界活性化の起爆剤となるのか。新谷氏に学院の歩みと大学開学の思いを聞いた。

(聞き手=高橋知行)

今なぜ、工芸が大学教育の場で必要なのですか。

新谷工芸界全体を見渡せる人材が必要だと感じたからです。教育訓練校である大学校では技能の習得に特化し、即戦力となる人材を主に養成しました。大学では技能の習得はもちろん、芸術論や外国語をはじめとする教養科目の教育も重視します。目標は即戦力にプラスして、工芸を総合的にプロデュースできる力を身に付けることです。

例えば一つの作品の価値を判定するとして、芸術論を学んだ人と、制作技法を習得した上で芸術論まで学んだ人とでは、どちらの方が本当の価値を見極められると思いますか。工芸に関する全ての素養を養うことが必要です。

そして国際的に活躍できる人材の育成です。その一環として仏国のエコール・ブール国立工芸学校や仏国最大の工芸振興組合アトリエ・アール・ド・フランスと提携協定を結び、交換留学や作品の仏国での展示などを行います。

他の美術大学との違いは。

新谷職業人として自立できるように技術を基礎から徹底して教えることにあります。依頼者のニーズをつかみ、確実に制作する力量を身に付ける。技術の習得に関しては教授は師匠、学生は弟子という関係です。時には師匠から怒鳴りつけられることもあるでしょう。同じ釜の飯を食べ、師匠の技を盗む。徒弟制度の良いところも引き継いだ教育スタイルです。

技術習得への強いこだわりがあります。

新谷日本はものづくりの国です。その原点は手仕事で作られた工芸にあると確信しています。私は学院創立以前は長く建設・住宅業界に身を置きました。そのころから職業人として技術の習得がいかに大切かを痛切に感じていました。

ですから学院は当初京都国際建築技術専門学校に始まり、数年後に京都伝統工芸専門学校を開校しました。学校教育と資格取得などの実学、双方を重視した教育内容です。

二本松学院開設で苦労されたことは。

新谷特に伝統工芸は体系的な教育システムが無かった分野です。カリキュラムの作成からのスタートでした。次に教員養成です。講師は第一線で活躍する職人さんたちです。職人としては一級ですが、その方々を先生として育てることも課題でした。そのため建築会社の役員も退任し、現在まで学校運営一本で働いてきました。

また学生を集めることも重要です。学院では学生1人を集めるために学校資料の作成、広告費用などでおよそ100万円を掛けています。一見華やかに見える学校運営ですが目に見えない苦労はたくさんあります。

学院開設時の反応は。

新谷当初から伝統産業界や行政などのバックアップをいただきましたが、一部に「商売敵を作ってどうする」などの厳しい意見もありました。

しかし産業の活性化のためには後継者育成が必須の課題です。伝統産業の関係団体には開校の理念を説明してきました。おかげで各団体から講師の派遣などご協力をいただき感謝しています。

現在の反響は。

新谷伝統産業従事者の後継者の育成について、他地域の行政・業界から「学校をつくっても長期的に続かない」「卒業生が地域に残らない」などの相談を受けます。工芸に特化した学校運営の厳しさを感じます。

今では実績が評価され、「この学校に入って京都の技術を学んでこい」と職人である親の勧めで入学する生徒もいます。中には一から工芸を学びたいと美大の卒業生が入学することもあり驚かされました。卒業生は全国の工芸界で活躍しています。後継者を育成するという価値を広く認めていただいたと感じています。

宗教は伝統工芸とのつながりが深いですね。

新谷寺院の荘厳具などは伝統工芸の集合体ともいえます。平成20年には清水寺の大黒天像の修復を学生が行い、お寺には毎年生徒の作品展の会場をご提供いただくなど良いご縁をいただいております。仏教各宗派の本山が集まる京都で、学生が至高の宗教美術や工芸に触れる意義は大きいと感じます。

工芸教育の可能性を教えてください。

新谷工芸には、現代のものづくりに役立つ数々のヒントが隠されていると思います。ものづくりの原点である工芸技術を継承していくことは、これからの日本の産業界を縁の下で支えることだと自負しています。