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人生に定年なし ― 過去ご破算にして修行に飛び込む

臨済宗妙心寺派開眼寺住職 柴田文啓氏

2012年11月15日付 中外日報(わが道)

しばた・ぶんけい氏=昭和9年生まれ。福井市出身。福井大工学部卒業後、横河電機㈱に入社。GE横河メディカルシステム常務取締役、横河電機取締役、横河アメリカ社社長を歴任。平成11年に得度し、永源寺専門道場で修行。13年、長野県更埴市(現・千曲市)の臨済宗妙心寺派開眼寺住職に就任。同派宗門活性化推進局顧問、社会福祉法人花工房福祉会理事長、千曲国際交流協会アフガニスタン支援部会長などを務める。
「第二の人生」こそ大切と語る柴田氏
「第二の人生」こそ大切と語る柴田氏

定年後は出家し、「第二の人生」を世のため人のために役立ててほしい――臨済宗妙心寺派は、企業退職者等を対象に、僧侶としての道を後半生の生き方の一つの選択肢として示すため首都圏の企業に働き掛ける準備を進めている。この構想の提案者で、自らも定年後、禅門に身を投じて多面的な活動を続ける柴田文啓・開眼寺住職(78)にいま歩み続けている「道」について聞いた。

(津村恵史)

定年後に出家を、と考えたのはいつです。

柴田横河電機に入社して7年目、東京・奥多摩の加藤耕山老師の寺へ毎週、坐禅に通い始めました。福井大を卒業する前、永平寺で1カ月ほどお世話になったこともありましたが、耕山老師との出会いは、私にとって大きかったですね。

参禅はあまり受けてもらえず、「隻手の音声」の公案をもらっただけです。一度、「どんな仕事をしている」と聞かれたので「機械を作っています」と答えると、「偽坊主を見分けられる機械ができればいいな」とおっしゃったのは今でも思い出します。

老師は95歳で遷化され、私も仕事が忙しくなり坐禅から遠ざかっていました。しかし、「人生の最期は耕山老師のまね事でもしたい」とずっと思っていました。

会社ではどのような仕事を。

柴田最初は製造で、工場のオートメーション化事業を手掛け、次いで営業に移りました。その後、日本でゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社をつくることになり、マーケティングの責任者に任命された。役員会は全て英語です。一生懸命勉強しました。

「経営の神様」といわれたGEのジャック・ウェルチ氏とは今も交流があるそうですね。

柴田厳しいが気配りの素晴らしい人です。初めてGEの本社へ行き、妻と一緒にご挨拶に伺った時、合弁会社の単なる一役員なのに、心を込めて応対してくれました。自慢話は決してしない。質問は盛んにされましたね。後から思い返すと、耕山老師もそうでした。彼は引退しフロリダで生活していますが、現在も手紙のやりとりをしています。

ビジネスの第一線から僧堂へ。全く異なる世界ですが。

柴田耕山老師のような生き方をと思い、62歳の定年で僧堂に入門する考えでした。しかし、HOPEという横河電機が支援する国際医療支援NGOの仕事に携わることになり、滋賀県の永源僧堂に掛搭できたのは65歳の時です。耕山老師の「最後の弟子」に当たる永源寺派の山田文諒和尚に得度の師になっていただきました。

精神的、体力的には大丈夫でしたか?

柴田最初、最古参の雲水から「65歳という年齢は考えなくていいですか」と聞かれましたが、年齢は関係ないですね。この人には「クソジジイ」と怒鳴られたり、殴られたこともあります。でも、実に親切に面倒を見ていただき、おかげで掛搭から1年3カ月、修行についていけました。その後も、篠原大雄老師が遷化されるまで、年4回の永源僧堂の接心には参加していました。

入寺した開眼寺は檀家のない寺だった。

柴田十数年無住で、檀家は1軒だけでしたが、「おらが村の観音さま」として地域の人たちが守ってきた寺です。他宗の寺の法要で客僧に呼ばれたり、お盆の棚行にも回りますよ。

横河電機以来の友人らの寄付で禅堂を建立して坐禅会を開き、寺に来る子供たちと一緒に遊んだりしています。英語教室も開いていましたが、英会話が下手になったので、これはやめました。

障害者支援施設の理事長を任されたり、企業の新人研修を受け入れて坐禅を指導し、さまざまな講演会の講師を依頼されるなど、会社員時代にはなかったご縁ができ、大変勉強になります。

妙心寺派が取り組む企業退職者の人材リクルートは柴田さんが提案したものですね。

柴田退職後の日々が充実していれば、棺桶に入る時、「ああいい人生だった」と感じられるじゃないですか。その意味では「第二の人生」の方が大切だと思います。僧侶として、世のため人のために、人生をもう一度生き直すというのは素晴らしいことですよ。

年金収入があれば、檀家のお布施に頼らなくていいし、出家したからといって必ずしも一寺の住職になる必要はない。どこかの寺に副住職などとして籍を置き、病院や企業のチャプレンとして働くこともできるでしょう。

企業チャプレンはちょっとピンとこないかもしれませんが、社員が心の相談をできるような存在を、少なからぬ企業が求めていると思います。

リクルートの手応えは?

柴田ようやくリーフレットができ、首都圏の上場企業に送ったという段階です。しかし、いままで企業の幹部と接触した限りでは、ポジティブな感触がありました。

人生経験を重ねた高齢者にしかできない仕事があります。過去の経歴、地位などにこだわらず、全てをご破算にして修行し、世のため人のためとなる僧侶としての「第二の人生」に踏み出せる人は大いに歓迎したいですね。

人生に「定年」はない、それが私の思いです。