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子どもを守り育てる

鎌倉てらこや理事長 早稲田大教授 池田雅之氏

2014年3月15日付 中外日報(わが道)

いけだ・まさゆき氏=1946年、三重県尾鷲市生まれ。比較文学者・翻訳家。現在、早稲田大社会科学総合学術院教授・同大国際言語文化研究所所長。NPO法人「鎌倉てらこや」理事長。その社会貢献活動に対して、2007年11月に博報賞、文部科学大臣奨励賞を受賞。11年には正力松太郎賞、共生・地域文化大賞。編著に『古事記と小泉八雲』『お伊勢参りと熊野詣』、訳書に『新編・日本の面影』など。
「てらこや活動」の取り組みを語る池田理事長(鎌倉の自宅で)
「てらこや活動」の取り組みを語る池田理事長(鎌倉の自宅で)

2003年、子どもと若者を守り育てる「寺子屋」を日本各地につくろうと、精神科医の森下一氏の提唱により、池田雅之・早稲田大教授が大学生と市民による教育ボランティア団体、NPO法人「鎌倉てらこや」を始めて10年たった。建長寺や光明寺での合宿で子ども・学生・大人の三世代交流や朗読会、陶芸教室を開催してきたほか、最近は学生が子どもの勉強を見たり遊んだりする「てらハウス」、学生が学童保育の手伝いをする「子ども会館パラダイス」の活動も開始した。

(齋藤祐一)

「鎌倉てらこや」発足のきっかけは。

池田2001年、不登校児や引きこもり児童をなくす教育に取り組んでいた森下一先生が早稲田大に来て、高度経済成長を遂げたわが国の青少年の心が非常に危機的な状況にあるという講演をした。02年秋から、若者たちと子どもたちの現状を訴える連続講演会を鎌倉(神奈川県)で開いた時に、鎌倉大仏(浄土宗高徳院)の佐藤孝雄住職の母・美智子さんをはじめ寺社の方々や教育関係者が森下先生を囲んで話をする会で、先生が「てらこやをつくろう」と提唱された。

なぜ、鎌倉で始めたのですか。

池田国家でも中央都市でもない、地方都市から子どもや若者を守り育てるボランティア組織をつくり、全国に展開していこうと。鎌倉は豊かな自然の中に多くの社寺があり、趣旨に賛同してくださる方々も多いと思いました。私も深く共感し、手始めに03年、「本気de建長寺」と銘打って子ども、学生、親御さんや大人スタッフが各20人ずつの計約60人で合宿を行いました。これまで11回続き、昨年は子ども100人、学生100人と大人で計約250人が参加して4倍の規模となり、てらこやが鎌倉で定着したと感じます。

鎌倉てらこや活動のポイントは。

池田大学生が主体となって子どもたちのお世話をしていることです。最初は「てらこや」と言っても何をどうすればいいか分からない。そこで私のゼミの学生に関わってもらい、親御さんに「大学生が子どもたちの夏休みの宿題を見てあげる」と呼び掛けました。本音は「一緒に精一杯遊ぼう」ということでしたが、これが当たり、年々参加者数が増えました。

この活動を本格化するために、鎌倉へ転居されたとか。

池田はい、05年9月に、それまで住んでいた千葉県松戸市から引っ越しました。03年の発足当初は毎週のように鎌倉に通い、民宿などに泊まっていましたが、学生たちの活動拠点が必要なこともあり、適当な土地があるというので家を新築しました。

学生スタッフの方々も喜んだでしょう。

池田はい。発足当初から10年間関わってくれた沖縄出身の上江洲慎君(前事務局長)の後、小木曽駿君(現副理事長)が現在運営の中心となり、毎年2~4学年のゼミ生の半数に当たる約30人余りがてらこやに参加し、12年からは近くの横浜国立大や明治学院大(横浜キャンパス)、鎌倉女子大の学生も参加するようになった。

池田先生はどちらのご出身で、両親はどんな方でしたか。

池田三重県に生まれ、4歳ごろから東京・葛飾で育ちました。母は歌人で、父は新聞記者でした。

幼少のころの地域社会は、どのような環境でしたか。

池田地域で子どもを育てるという環境があった。われわれ団塊の世代はそういう時代を経験できた最後の世代です。

地域コミュニティーが機能していた時代ですね。

池田はい。子どもたちが群れ遊びしているけれども、上にはお兄ちゃん、お姉ちゃんがいて、町のおじちゃん、おばちゃんが見守っているという、子どもにとってはユートピアのような世界。森下先生はそれを「複眼の教育」とおっしゃっています。

てらこやはその復活だと。

池田そう。「深い感動体験」「憧れの対象との出会い」「複眼の教育」が三つのポイントです。

豊かな自然や歴史建造物という"場の力"も大きいですね。

池田今までお寺とか仏様に関心がなかった子どもたちも、宗教心のようなものが身に付いているような気がしますね。乱暴な子どももいるけれども、お寺に来ると仏像に手を合わせたりしています。佐藤・高徳院住職いわく「人間は誰でも仏性を心の中に持っている。それを信じて活動していくことが大事だ」と。

ご自身の変化は。

池田長く教師をしてきて、どうしても学生を学力のみで評価していた。しかし、この活動を通じて学生の子どもや親御さんとの接し方を見ると、教室では見えない学生の良さ、人間力が見えてきた。それが教師生活40年の宝です。子どもを見る時も、生きている命の尊さに対する感動がある。まさにこの10年間、子どもたちに育てていただいたというのが実感ですね。

今後のてらこや活動に求められるものは。

池田リーダーの育成です。特に学生たちには、「NPOを経営する」という意識を強く持ってほしい。自分たちが行っている活動の社会的価値が、心ある人々からの寄付や支援につながっていくことに、もっと自覚的であってほしいと思いますね。