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“草の根”日印交流に尽力

NPO法人代表 スカルマ・ギュルメット氏

2014年5月23日付 中外日報(わが道)

スカルマ・ギュルメット氏=1966年生まれ。NPO法人「ジュレー・ラダック」代表。インドの大学を卒業後、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」で働く。97年に来日し、2004年に日本で「ジュレー・ラダック」を設立。ホームステイプログラムの企画やソーラークッカーの普及支援、イベントの開催で日本とラダックの交流に努めている。
人生にチベット仏教が大きく影響していると話すスカルマ氏
人生にチベット仏教が大きく影響していると話すスカルマ氏

インド最北部のラダックに生まれ、共同体を中心とした昔ながらの生活を続けるラダックと経済成長を遂げた日本の姿を目の当たりにした。近代化は常に良い結果をもたらすのか、疑問に感じ、伝統と発展のメリットとデメリットを互いに学び合う活動に努める。その根底には「他者のために尽くす」というチベット仏教の教えがある。日本の仏教者にもラダックについて関心を持ってほしいと呼び掛けている。

(甲田貴之)

NPO法人「ジュレー・ラダック」を立ち上げたきっかけは。

スカルマ1987年から97年まで現地のNGOで働いていましたが、日本人女性と結婚し、16年前に来日しました。その後、インドとの国際協力活動をしていましたが、そこでラダックと関わるNGOが日本にないことに気付き、2004年にNPO法人「ジュレー・ラダック」を立ち上げました。スタディーツアーを実施し、日本の方々にラダックの持続可能な生活や課題などを学ぶ機会を提供しています。

ラダックの人々は自然と共存した生活を送っていますが、厳しい環境の中で貧困に苦しむ人もいます。07年からは現地の環境に配慮した太陽エネルギーを使って調理するソーラークッカーの普及支援を行っています。

ラダック地方はどんな地域ですか。

スカルマラダックはインド最北部の山岳・高原地帯で降水量の少ない乾燥した地域です。住民の大半をチベット系民族のラダッキが占め、彼らの多くはチベット仏教の信者ですが、中にはムスリムもいます。ラダックではコミュニティーのつながりが強く、結婚式や葬式をはじめ、家の建設など常に助け合って暮らしています。

一方、都市部では近代化が進み、道路や下水などが整備されつつあります。しかし、これまでふん尿を肥料としていたのが下水で川に流れ、畑には化学肥料が使われるようになっています。化学肥料を購入するために借金をしたり、農薬漬けになった土は汚染され、自然の種では実らなくなったりしています。発展が常に良い結果をもたらすわけではありません。「よい暮らしとは何か」を考える岐路に立っているのではないでしょうか。

チベット仏教が根付いている?

スカルマ寺の行事は村の人が手伝うのが当たり前になっています。仏像・仏舎利の修復も信者が主体となって行っています。人々は教えを聞くことを楽しみにし、農作業を終えた冬には村の全員が協力して僧侶の食事や住まいを用意し、法話に耳を傾けます。中には一日中、僧侶のそばに居続ける人もいます。仏教は精神を安定させてくれます。人生で悩むことがあっても、乗り越えられる力を与えてくれます。

スカルマさんもチベット仏教の信者ですか。

スカルマ私はチベット仏教カギュ派の信者です。幼いころから両親に連れられ、お寺に行っていました。大学では哲学を専攻し、特に龍樹(ナーガールジュナ)の「友人への手紙」を専門的に学んでいました。「友人への手紙」は大乗仏教のエッセンスが詰まっており、学んだことが私の人生に大きな影響を及ぼしています。

活動の中にも教えが影響していますか?

スカルマ仏教は「我欲を捨てて、他人のために尽くし、物質的にも精神的にも見返りを求めないこと」を説いています。私たちの活動は、日本とラダックの両方にとって価値あるものを提供できるよう心掛けています。例えばスタディーツアーでは日本人がラダックの暮らしを知るだけでなく、現地の人を交えたワークセミナーを開催することで、ラダックの人々が発展のデメリットを理解する機会になっているのです。印象深かったのは、プラスチックごみが土に返らず、動物たちがのみ込むことで死を招いている現状を日本人から学んだ現地の若者が、ごみ拾いを始めたことでした。自分の村を守る自覚を促しているのです。

日本の仏教についてどう思いますか。

スカルマ寺が門を閉め、檀家以外にとっては入りにくい雰囲気を出していることを残念に感じています。仏教について僧侶や檀家の方から話を聞くこともありません。僧侶は墓の管理や葬式に従事するだけになっているのではないでしょうか。仏教者の本来の役目は教えを説くことではないでしょうか。5分でも法話するような積極的な活動をしてほしいです。

ラダックと日本の仏教者の交流はありますか。

スカルマ現在はありませんが、ぜひとも交流してほしいですね。伝統を色濃く残す地域と発展した地域の仏教。お互いに学ぶことも多いと思います。ラダックに関心のある僧侶の方から連絡があれば、私たちでそういった機会を設けていきたいと思っています。それもまた、私たちの大きな役割です。