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<連載・断面>都市開教④

2014年6月6日付 中外日報

「侵略」への警戒 地道な活動で転換

東京都内で開教に着手しようとした時に、地元の住職から葬儀社との関係について探りを入れられたのは日蓮宗国内開教師の赤澤貞槙氏(33)だ。

2010年に国内開教制度が始まった日蓮宗では、開教候補地の地元寺院には事前に制度の内容を説明する文書を配布。そして、開教師選抜には地元管区の宗務所長が立ち会い、管区で受け入れられる人物かを見極めた。

その結果、在家出身で「布教が生きがい」と言い切る赤澤氏が国内開教師の第1号に選任され、同宗の寺院がない国立市に布教所が設置された。

地元寺院と無用の軋轢を起こさないよう慎重に配慮しつつ臨んだ開教だったが、「(管区内の寺院には)応援したいという気持ちと、檀家を取られるのではないかという不安が交錯していたと思う」と赤澤氏は言う。

「侵略と受け取られてはいけない」。こう自らに言い聞かせ、葬儀社からの葬儀や法事の依頼は受けず、毎月第4日曜日に開く読経と法話の会「信行会」を中心に活動を続ける。

日蓮宗以外の信者や外国人も集う会には、都内の日蓮宗寺院の信徒も参加するが、事前に所属寺の住職に連絡し許可を得る。これまでトラブルになったことは一度もないそうだ。

日蓮宗宗務院の職員は「もし檀家が奪われるとの苦情が出たとすれば、苦情を言ったその住職が自らの努力不足を表明するようなもの」と言う。

2014年度版の『宗教年鑑』によれば、全国に仏教系寺院は7万7千カ寺余りあるが、日本の人口の約3分の1が集中する東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏1都3県の寺院数は約1万カ寺。人口10万人当たりの寺院数が最も多いのは滋賀県で約229カ寺。東京はその約10分の1の23カ寺だ。

総務省統計局、国立社会保障・人口問題研究所の調査、分析では今後、東京、神奈川、滋賀、沖縄などを除くほとんどの自治体で人口が10~30%減少すると予想されている。

特に農山村に寺院が多い浄土真宗本願寺派は、過疎が問題となり始めた1970年代末ごろから首都圏で都市開教に取り組んできたが、この間に設置された開教拠点(寺院・非法人寺院・布教所など)は約80カ所。

平均すると年間では2カ所だ。開教実績が飛躍的には伸びない原因の一つに、地元の東京教区の協力が思うようには得られないなどの“お家の事情”がある。

「開教といっても全く未信の人たちが対象ではなく、故郷を離れて東京などで暮らしている『離郷門徒』の人たちへの働き掛けが中心だった。当然、地元の寺院との間でこうした門徒の法事の奪い合いも起こる」

開教の実態を、仲間同士のパイの奪い合いに例えた首都圏の住職は「それにわれわれだって、開教専従員がどんな人物かよく分からないのでは、支援してほしいと言われても」と当惑する。

拠点設置に当たっては、地元の住職らと事前に話し合い、了解を得るようにしているが、東京教区の住職らは「総論賛成、各論反対」の複雑な思いでいる。

しかし全住職らを対象とした2009年の第9回宗勢基本調査で、52・5%の住職が過疎化の影響などで20年後の寺院の護持・運営は厳しくなると危惧しており、都市開教に取り組まねば教団の教線が先細りになるのは確実だ。

このため同派は「宗法」などを改正し、2年前に抜群の知名度がある築地本願寺(東京都中央区)を拠点とする首都圏開教特区を新設した。

これまで3カ月間だった開教専従員の研修期間を2年間に延長して専従員が教区内の住職らと接する機会を増やし、教区要職者も参画する特区協議会で開教拠点の適正配置を検討。また拠点を増やすだけではなく、公開講座などで未信の人々との縁づくりに努める。

特区が果たして「各論賛成」への転換の決め手となるのか、その答えが出るのはまだ先だが、本願寺派の新たな試みを、同様の課題を抱える他教団も注目している。

本願寺派や日蓮宗などのように教団として都市開教(国内開教)に取り組む場合には布教所や寺院などハード面の整備に重点が置かれるが、都市部では、「敷居の高さ」などから寺院と関係を持つことを躊躇する人たちも少なくない。

東日本大震災を機に人々の宗教的な関心が高まりつつあるとされているが、都市部では「寺」や「檀家制度」という形にかかわらず、自由な形で人々の宗教的関心に応えようとする動きも始まりつつある。