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<連載・断面>都市開教⑥

2014年6月25日付 中外日報

ネットの限界 心強い味方になるのか

「夜、布団の中に入って目をつぶると不安になってきます。これって死の恐怖なのでしょうか」

東京都内で都市開教に取り組む40代の僧侶のパソコンの画面には、今日もまた見知らぬ人たちからの相談が届く。ホームページに書き込んだ「相談に応じます」の一言を見てメールをしてくる人が1週間に少なくとも4、5人はいる。

心霊現象などについて長々と述べ立てるマニアックな内容もあるが、ほとんどの相談に一両日中には返信するようにしている。

「返事を送らなければ、それまでになってしまう。せっかく『入り口』まで来てくれたのだから、何とかしてご縁につなげたい」との思いからだ。

インターネットは、これまで縁もゆかりもない大都市でゼロから開教に取り組まねばならない僧侶にとって、心強い味方となり得る存在だ。

「ホームページを見て(坐禅会に)来る人のモチベーションは高い」と話すのは、臨済宗妙心寺派の愛知西教区が中心となって設立した名古屋禅センターの武山廣道・センター長だ。

東海都市圏の一般の人たちへ禅文化を広めることなどを目的に2年前に設立されたセンターは、特定の事務所は持たず、ネット上のホームページが活動の中心。

坐禅会に参加するのは、大半がホームページやフェイスブックなどを見て来る人たちだ。リピーターとなり、さらに寺院の坐禅会に参加する人もおり、武山センター長は「ネットの効果を感じている」。

ネットを使えば一度に多くの人たちに情報を伝えることが可能だが、短時間で不特定多数の人々に情報が拡散するため、個人的に発信した情報をその人が所属する組織の公式見解と誤解して受け取る人も中にはいる。

伝統仏教教団に所属するある開教僧侶は、一般の人からの要望でお布施の目安をホームページに掲載したが、ある仏教団体からの指導で削除を余儀なくされた。

開教を始める際に専門業者に依頼してホームページを制作したが、自力で更新することができず、業者に頼むと経費がかかるために断念した僧侶もいる。

浄土真宗本願寺派の松本紹圭氏(33)は仲間と宗派を超えた若手僧侶らがネットで発信するサイト「彼岸寺」を立ち上げており、月間13万件(ページビュー)のアクセスがある。

しかし、松本氏は「ネットはあくまでも自分がやりたいことを実現するための一つの道具。大事なのは、ホームページにアクセスしてきた人たちとどういう関係をつくっていくかで、それが無ければ入り口でいくら頑張っても意味はない」と指摘する。

「大事なことはコミュニケーション力を磨くこと。それが広い意味で布教だと思います」

冒頭に紹介した、相談メールに返信を認めている僧侶は、メールでの悩み相談がきっかけで、その後さらに関係が深まっていく人は全体の1割にも満たないと言う。

「私の能力不足で相手の望むような回答になっていないのかもしれません」と自省しつつ、「最近の若い人たちはメールなどで気軽に悩み事を相談してきますが、誰かに悩みを打ち明けることが目的で特に答えは求めない人もいるので、どう対応していいのか戸惑うこともある」と、ネット社会での開教、布教の難しさを感じている。

統計数理研究所の「日本人の国民性調査」によれば、「宗教的な心は大切」と考えている人は全体の約7割に上るが、宗教教団や教団に属する僧侶が考えている「宗教」と、調査に表れた「宗教的な心」とは必ずしも同じではない。

「何か信仰を持っている」との回答が、教団に所属していると答えた人の割合よりも高く、教団の信者でなくても信仰心はあるという人たちが2割ほど存在しているとのデータもある。

この「2割の溝」をどう埋めることができるのか。各教団や開教僧侶らはネットなどさまざまなツールを用いながら模索を試みているが、まだ明快な答えを見いだすには至っていないようだ。