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<連載・断面>新宗教⑩

2014年8月29日付 中外日報

公益活動社会と接点 布教より重視

文化や健康に貢献する活動を地道に続けている教団がある。その対象は教団の信者に限らず、広く一般市民に向けられる。教祖らが抱いた高遠な理想を受け継いで行われる公益活動は、教団と社会をつなぐ重要な接点。社会と関わりながら人の幸せを願う行動は、新宗教、伝統宗教という枠組みを超えた信仰心の発露だ。

真新しい児童書を手にした小学生たちが、次々とページをめくっていく。昨年台風による土砂災害が発生した東京・伊豆大島のつばき小へ7月、創価学会から100冊の図書が贈呈された。本を手渡された図書委員の児童は「本が大好き。夏休みにたくさん読みたい」と目を輝かせた。

創価学会の図書贈呈運動は1974年に始まり、今年で40周年を迎えた。対象は山間部や離島など教育環境に恵まれない地域や、自然災害で被害を受けた地域の小中学校で、1126校に48万冊以上を贈ってきた。贈る書籍に創価学会関連や宗教関係は含まれていない。大手書店の協力を得て選定し、スチール本棚と共に贈呈している。

沖縄の離島の中学への第1回贈呈式には、池田大作会長(当時)が出席した。池田元会長は戦時中に青少年時代を送り、本が読みたくても読めなかった。本を読むこと、学び続けることの重要さを折に触れて説いており、会員はその思いを大切にしている。

広報室の井戸川行人・渉外部担当部長は「喜んでいる子どもの姿を見るだけで素直に感動する。感受性豊かな時期に良書に触れ、立派に成長していけるよう、長く続けていきたい」と話す。

公益活動には多くの教団が積極的に関わっている。霊友会の明法中高、辯天宗の智辯学園などには、信者でない生徒が多く通う。また立正佼成会の佼成病院、天理教の天理よろづ相談所病院「憩の家」など、公立病院と同様に一般市民が受診に訪れる施設を教団が運営している。

2012年に庭野平和財団が行った調査では、宗教教団による学校教育や病院運営について「知らない」が61・9%と過半数を占めた。それにもかかわらず公益活動が続けられていることについて、島薗進・上智大特任教授は「新宗教教団において、信者を増やす活動には限界が見える。近年は社会と接点を持つ上で、布教より社会活動にウエートを置くようになってきている」と分析する。

大本は戦後間もない時期から、安全な農業技術の開発・普及に取り組んできた。出口王仁三郎教祖が「農は天下の大本」と、農業の重要性を説いたことに基づくものだ。「天産物自給自足」を理想に掲げ、外郭団体の愛善みずほ会(注)を通じて、正しい食・農・環境の実現に向けた活動を展開している。

同会が開発した農法は、微生物と酵素の力で土づくりから始め、農薬や化学肥料に頼らない。山田歌・総務課主幹は「農が国の中心で、政治や経済、文化はその基盤の上に成り立つ。今は多くの食糧を輸入に頼るが、自分たちの食べ物を自ら作っていこうと呼び掛けている」と話す。

10年からは新規就農者の支援事業も開始した。現在6人の研修生が、農業の基礎から専門的な知識・技術、農業経営の実際までを学ぶ。神原哲士さん(30)は大学でスポーツ医学を学んだが、「医食同源」の考えから食の重要性を認識するようになり、研修生に加わった。「農業は自然科学の集大成。やればやるほど視野が広がり、これほど誇りを持てる仕事はない。農業を理論立てて説明できる農家になりたい」と汗を流す。

時代の急激な変化に伴い新宗教を取り巻く社会状況も大きく変化している。井上順孝・國學院大教授は「従来の宗教は、地縁、血縁、同士縁の上に成り立っていたが、それがなくなったのが今の時代。情報化時代を迎え、伝統宗教も新宗教も、同じスタートラインに立った」と見る。

今後は、例えばネット上だけで教えが広がっていくような、これまでになかった形の宗教団体が出てくることも考えられるという。「だが人が死後の世界に関心を抱くことに変化はない。宗教も、表層的な変化を見せる一時的ブームはあっても、本質的なところは同じ。良い教えを共有できる教団が人々の信仰を集めていくことは、いつの時代も変わりがない」

(おわり)

(注)愛善みずほ会 深刻な食糧不足に見舞われた戦後日本を農業から復興しようと出口すみ子初代総裁(大本2代教主)が1948年に創設。