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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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<連載・断面>賦課金 第1回

2014年9月10日付 中外日報

消費増税で「苦渋」の値上げ

落胆の被災教区

「こんな時に檀家さんに宗費が上がったなんて言えますか?」。福島県いわき市の真言宗智山派地藏院の登嶋弘信住職(77)はため息をつく。東日本大震災から3年以上がたったが、県内では原発事故がいまだ収束せず、津波の影響も色濃く残る。檀信徒は散り散りになり、避難先のアパートから自坊に通う住職も多い。

智山派は2月18日の教区代表会(=他宗でいう宗議会)で、「宗費負担数賦課金」を、現行の1830円から50円値上げする議案を上程した。宗費は、各寺院の自己申告に基づく「宗費負担申告数」に同賦課金を乗じて算出される。

値上げで見込まれる増収は年間二千数百万円。4月の消費増税への対応に加え、総本山智積院の防災・山容整備、先を見据えた長期的な事業展開など宗派の維持発展活動や各基金・積立金の充実に充てられる。

小宮一雄・宗務総長は「やむを得ない苦渋の値上げ」と説明したが、代表委員からは「昨年の予算委員会では『値上げはない』と明言したではないか」「増税の2カ月前にならないと決断できないのか」などの厳しい質問が飛んだ。

総務委員会後の討論では被災地の福島や宮城、岩手教区の代表委員から「いまだ復興の兆しが見えない地域に住む檀信徒や寺院のことを考えてほしい」「あと1、2年の猶予は必要」などの反対意見も相次いだ。

採決の結果、賛成28票、反対27票のわずか1票差で値上げが可決された。仏教主要10宗派で、4月の消費増税に伴い今年度の宗費値上げに踏み切ったのは智山派だけだ。飯島俊勝議長は「賛成・反対どちらの意見も宗団を思う心に満ちあふれていた」と振り返る。

教団を支えたい

登嶋住職は福島第一教区の代表委員。代表会後の教区総会で値上げを報告すると「お前は何をしに行ったんだ」と教区管内の住職から詰め寄られたという。しかし「伝統や仏教文化を守るため、自坊と教団を守っていこう」と説得した。

同教区(89カ寺)は大半の住職が震災前から一般企業に勤め、お布施と自らの給料で寺院を護る。「宗費の値上げは檀家さんには伝えられない。値上げ分は自分たちの給料で賄うしかない」。皆のこうした決意を思い、登嶋住職の胸は痛んだ。宮城教区の代表委員、杉田広仁・彌勒寺住職(64)が「値上げが決まった。護持会で予算を組む時は留意を」と告げると、「被災寺院としてつらいけれども教団を皆で支えていこう」との声が返ってきた。

「宗費は宗団を護持・運営するための財源。みんなの支えが必要で慎重に使いたい」と小宮宗務総長は言う。だが被災地への配慮はできなかったのか。

免除制度に問題

智山派には被災寺院への宗費免除制度があるが、利用すると昇補の際の礼録金なども払えないと見なされ期間中は昇補ができなくなる。「跡取りに勉強させ、昇補させてやりたい」と考える住職らは制度を利用しないのが現状だ。震災直後は47カ寺が免除されたが、今年度はわずか9カ寺の申請にとどまった。ある被災寺院住職は「本山からは義援金ももらっているので何も言えない」と言う。

地藏院の境内では、今も毎時0・35マイクロシーベルトの放射線量が検出される。市の費用で除染されるのは本堂のみ。墓地など境内の大半は対象外だ。「実費で除染を続ければ、あと2、3年で檀家さんも帰って来ることができるはず。せめてそれまで値上げは待ってほしかった」――。登嶋住職は力なく漏らした。

「目的達成の経費に充てるため、一般寺院並びに教師及び准教師に対し、賦課金(略)を賦課徴収する」(「曹洞宗規則」)――同様の規則は各宗派にある。だが消費増税やなかなか好転しない経済情勢など宗門を取り巻く財政環境は厳しく、末寺・教師の負担感は根強い。宗門を支える「みんな」とは誰なのか。宗費・賦課金をめぐる各宗派の動きを追う。