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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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風鐸

宗教や社会の諸情勢について思いをつづるコラム。軒下につるした風鐸の音色のように、読者の心に響くことを願って……。

温かい出来事

2017年5月10日付 中外日報

帰宅の電車に乗ると、目の前に座っているスポーツバッグを持った少年二人が私を見上げて「どうぞ」と席を立った。最近は、そんなに年が違わないような人からも席を譲られることがある。そういう年齢になったのだと苦笑しつつ「ありがとう」と腰を下ろした◆出張に向かう列車での過去の出来事を思い出した。4人掛けの座席は通路を挟んで左右どちらにも3人ずつ座っていた。停車駅で小学生らしい姉と弟が乗り込んできて、空いている席にそれぞれ分かれて座った。目の前に姉がいたので、姉弟が向き合えればと思い、弟に席を譲って入れ替わった◆二人は楽しそうに話をしていた。暫くうとうととしていた。列車が停車すると、女の子が「ありがとうございました」と言って私の膝に何かを置き、二人は急いで降りていった。皮をむいて切り分けたリンゴが袋に入っていた◆思いがけない行為に一瞬戸惑ったが、どうやら持っていたリンゴを弟と食べ、私にも分けて感謝の気持ちを伝えたのだと理解した。女の子の心遣いが波のように寄せてきて、胸が温かくなった。お礼の言葉だけでも十分なのに、見ず知らずの者にした振る舞いに驚かされた◆心を打たれたのはなぜだろうか。素直さ、無条件の信頼、それとも純真さ――。忘れかけていたものに触れた思いがしたのは確かだ。この出来事は、その後もずっと忘れられないでいる。(形山俊彦)