● いのち寄り添う ― 大震災 苦の現場から
原発さえなければ 2(1/3ページ)
2012年2月23日付 中外日報
原乳出荷停止で牛が処分され、空になった牛舎には寒風が吹き込む(福島県相馬市で)

廃業する気持分かるか
見えない恐怖下の苦悩
「私たちはだまされ続けてきました」。福島県飯舘村前田行政区の区長、長谷川健一さん(58)は穏やかな表情ながら憤りを隠さない。
村内の放射能除染は400メートル四方当たりで6億円を要し、数十年かかるとされるが、「村は75%が山で全てを除染できない。ならば田畑を除染しても戻って生活できない。私らはいいが、子供や孫の世代はどうなる。安全な食べ物を提供するのが農家の誇りなのに、それができなければ廃村になるかもしれない」。
原発は国策で推進され、自民党政権時代から国も安全を強調してきた。「だから万が一のことがあっても対応策はきちんと決まっていると思っていたのに、何もないじゃないですか」
福島第1原発から45キロ、昨年11月に猛毒の放射性プルトニウムが検出された前田区は村の北西で、250人が暮らしていた。村全体で荒れ地にワラビやヒマワリの畑を作るなど村おこしに取り組み、「日本で最も美しい村づくり」に認定されている。「貧しくても胸を張れる故郷だ」と隣接市への合併を拒否した。