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いのち寄り添う ― 大震災 苦の現場から

駆け付けた人々 9(3/3ページ)

2012年6月16日付 中外日報

末期がんの痛みを「人生は苦だから」と言い、「世話になったね」と笑顔で逝った男性。亡くなる直前まで、「毎朝、目が覚めるだけで幸せ」と教えてくれた老女。退職するまでの3年間に数百人をみとり、多くの学びがあった。同時に、「葬式係」ではない僧侶の仕事は何かと模索した。

東京の地元新宿での独居高齢者の見守りや「サンガ」の活動は、そんな「生老病死の駆け込み寺」だった。例えば、孤立死の現場には年間50件も立ち会う。40代女性から「母が大変です」と連絡があった。離れて下町で一人暮らす木造アパートの部屋に行くと、警察が来ていて猛烈な異臭がした。中に踏み入ると、床一面の虫が腐乱死体から這い出していた。

脳溢血で死後数週間。衝撃で泣き崩れる女性は以前、家庭内暴力から逃げて来たのを助けた。生活保護で暮らすが、母親との関係は良くなかった。別の30代男性の孤立死の現場には、あちこちに赤ペンで印を付けた大量の求人誌と携帯電話が残っていた。「困っても助けを求められない。そんな社会を何とかしなくては」。それが中下さんの原動力だ。

つまずきもある。葬送支援はそんな人も対象に生活保護葬祭扶助費から、また無償で行うが、高級車を乗り回している人から「あんた、タダでやってくれるんだって?」と依頼が来ることもある。活動がマスコミで知られ、ネットで「安い葬儀」の検索に掛かるからだ。だが全て断った。

生活困窮者の支援でだまされて金を取られたり裏切られることも多い。だが、それはその人に裏切られた悲しい経験があるからだ。「信じてもらうためには、差し出した手をつかんでもらえなくても引っ込めずに出し続けること」。活動の中でそれが分かったという。

さまざまな苦の現場でも、そして被災地でも、悲しみを分かち合うことが大事だ。そう感じ、悩みながら歩いてきた中下さんには、つらい生い立ちがあった。

(北村敏泰)