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いのち寄り添う ― 大震災 苦の現場から

支える思い 14(3/3ページ)

2012年8月28日付 中外日報

楽しい話も悲しい話も、会話が途切れない。

三重県の寺のバザーに皆が縫った雑巾を送っていた。そこの門徒の老女が「もったいなくて」と雑巾を拝み、まずそれで仏様を磨いた後に自分の顔を拭いたという。その話を伝える吉田さんの目が潤んでいた。「たかが雑巾、されど雑巾ですね」。また輪が広がった。トメさんらは「吉田さんのお話にはいつも励まされるわ。やはりお坊さんじゃねえ」と言う。

この土地を支援先に選んだのはたまたまで、縁もゆかりもない。「落ち着いてから葬儀にやって来る僧侶としてではなく、悲しみを共にする人間として」と考え、当初から駆け付けた。動きやすいよう1人で。だが何度も通ううちに「実はこうなのよ」と女同士の本音の話になり、背中をさすり合って一緒に泣く。

手芸のきっかけは、避難所に傾聴に訪れた際に「ズボンが長いから詰めたい」「上着にボタンを付けたいので針と糸が欲しい」という希望を聞いたこと。持っていくと生き生きと針仕事をする。得意な編み物がしたくて毛糸を欲しがる女性もいた。主婦らの「生きる力」を感じた。

「私は材料を持ってきて声を掛け、できたものを引き受けるだけ。こういう雰囲気で皆さんが落ち着き、打ち込めることがあることで一人一人が前に歩き始めておられるのです」。あの「待ってたのよ」が吉田さんの原動力だ。背景に人々の思いがある。自分の力ではなく、何か大きな他の力に動かされている、そう実感する。

(北村敏泰)