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いのち寄り添う ― 大震災 苦の現場から

心のケア・宗教の力 17(3/3ページ)

2012年10月27日付 中外日報

桑山医師の言う、「心のケア」のために記憶の語りを引き出す「オプション」は大人にも必要だ。心療内科を受診する患者に、津波で家ごと家族を奪われた60代の女性がいた。バッグ一つを手に、「これだけが残りました」と毎日来ては泣くばかりだった。事情を聞くと「昔は編み物をしていた」という。

「じゃあ、やりましょう」。桑山医師はそう受け、病院で編み物教室を開いた。9月には何人もの婦人が集まり「閖上アミーズ」というサークルになる。女性もやっと元気になって自分のことを仲間に話すようになり、投薬も必要なくなった。

人々がそれぞれの記憶を辿り、物語を語るよすがとするため、震災のいろんな写真や動画、遺物を集めて展示する「津波祈念資料館」を作ることを医師は提唱している。

そんな医師の活動の原点は「見て見ぬふりしない医療」だ。20年以上前から海外医療協力に携わり、56カ国へ支援に赴いた。NPO法人「地球のステージ」としてカンボジアやイラク、パレスチナなどで戦争難民や被災者の救援に力を入れている。そして、さらにそれを自ら発信する桑山医師は、全国各地の学校などで難民キャンプや災害現地の模様を伝え、児童生徒らと話し合う講座を繰り広げている。

3月の京都府の中学校での講座では、東北被災地の現況報告に続き、「人に死ね、とかウザいなんて言わずに、優しい気持ちを持ってほしい」と訴えた。

「世界単位でものを考え、地域単位で行動する」という東北国際クリニックのモットー。そんな普段からの姿勢が、桑山医師に震災で直ちに地元の人々への支援を開始させた。日常から地域や社会全体の諸課題に取り組んでいた各地の宗教者が被災地で素早く行動したのと同じことだ。

「見て見ぬふりをしない」。それは、「愛の反対は憎しみではなく、無関心です」と語ったマザー・テレサの宗教性にも通じる。

(北村敏泰)