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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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第102回 1、和尚さんの死 青空に一筋駆ける虹の龍

写真家國森康弘

2013.11.26~2013.12.17

  • 1、和尚さんの死 青空に一筋駆ける虹の龍
  • 3、私たちの役目 子孫へ「いのち」をつなぐ
  • 2、温かな最期 受け止める"命のバトン"
  • 4、みとりの現場から 十月十日と33分の「生」

滋賀県東近江市にある寺の住職だった朝男さんはかつて、毎日午前2時半に起きてお経をよんだ。前年までは、600年前の漢文などにある仏の教えを解説する座談会を月1度は開いていた。柔道や修行で鍛練した心身で、丁寧にお勤めを重ねてきたその朝男さんに、胃がんが見つかった。

年明けに手術をした朝男さんだが、寝たきりになり、みるみるやせ細る。辰年の83歳。長年連れ添う妻、白血病を患った跡継ぎ息子、4人の孫たちと暮らしていた。

「おっさん(和尚さん)、ただいま」。学校帰りに駆け寄ってくる孫の手を握り、朝男さんは笑った。代わりに病身をおしてつとめる息子のお経に耳を澄ませ、隣室のベッドでうなずいた。

永源寺診療所所長の花戸貴司医師が訪問診療にやってくる。「ごはんを口から食べられなくなったら、どうしますか。病院に行きますか」。朝男さんはいつも首を横に振って「いいや。家族もおるし、家が一番ええ」と、妻子の前で答えた。

花戸医師や看護師、介護士たちが家に来てくれる。週2回の風呂は何よりの楽しみだ。抗がん剤や点滴も使わない。専門職の支えを得ながら、家族は朝男さんに寄り添った。

老いと病を、小中高生の孫たちは目の当たりにする。朝男さんの正面には、ミイラのような釈迦苦行像の写真があった。「おっさんは、このお釈迦さんそっくりやなぁ」

「骨と皮だけ」になった朝男さんの表情は、安らかだった。夏の夕方、往診を終えて帰る花戸医師に手を振り、「ありがとう」と言った。数時間後、家族がたまたま見ていない、ほんのわずかな間に、朝男さんは旅立つ。

孫たちが体を拭き、髪を剃り、着物を着せて、泣いた。葬式には檀家や僧侶が多数参列する。小学5年の孫が朝男さんの遺影を抱いて外へ。続いて、花いっぱいのお棺が寺から出たとき、青空に突如一筋の虹が現れた。「りゅう、龍や」。参列者が声を上げた。全身に鳥肌が立つ中で、シャッターを押したのは初めてだった。