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時流ワイド

大寺院は都市防災の拠点(4/5ページ)

2012年9月20日付 中外日報

人と人のつながりを重視

高台寺公園地下の日本最大規模の耐震性防火水槽(工事中の写真=京都市消防局提供)
高台寺公園地下の日本最大規模の耐震性防火水槽(工事中の写真=京都市消防局提供)

報告書は、山内のどの建物が燃えても全体に及ぶ可能性があり、防災的には本山・塔頭全てが一体であると指摘し、水源・ポンプなど共用設備と各塔頭の屋内消火栓、火災通報装置などを「一体的」に整備すべきだと強調する。

周辺市街地との関係については、延焼危険度が高い地域との境界線上に「水幕による延焼防止のための消防設備」設置を提案。周辺の民家にも使用可能な首振り型ドレンチャーや放水銃を設備し、文化財防災と同時に地域防災にも寄与することを求めている。

さらに、境内が住宅地と接するゾーンの樹木を維持保全し、延焼遮断帯として補完的な防火機能を持たせ、風致と防災という両面で既存の緑地を活用するプランを提示している。

報告書は、妙心寺の自衛消防団の役割を重視し、初期消火活動の担い手として「修行僧」(雲水)が中心的な役割を果たすことを期待。防災訓練などの経験が自坊に戻ってからも地域防災で役立つ、と論じている。

注目されるのは「人のつながりを重視」する立場での提言。

住民アンケートを踏まえ、周辺地域住民は妙心寺の文化財的価値や生活環境としての価値への意識が高い、とし、初期消火や文化財の搬出など市民による具体的な協力活動への期待を述べるとともに、周辺住宅地の火災に際し公設消防が妙心寺の防火水槽等を使用できるようにするなど、妙心寺と周辺地域の防災計画を連動させることを要望している。

また、大規模災害時の妙心寺に対する住民の期待と塔頭の4分の3がこれに応える姿勢を示していることを指摘。このような相互協力関係を裏付けるため、周辺地域の市民と妙心寺山内の日常的な交流をより活発化することを提案している。

文化財防災でバッファゾーン(緩衝地帯)といわれる周辺地域と一体となった防災対策は、都市部の寺社に共通して求められる発想。報告書の指摘、提案は多くの寺社にも応用可能な部分を含んでいるというべきだろう。

東日本大震災の経験、さらに3・11をはるかに上回る南海トラフ大地震の被害予測発表などもあって、大災害への備えは緊急の課題と意識されるようになってきた。

具体的対策も始動し、例えば京都市東山区の高台寺前防災公園と清水寺の境内の地下には、直下型地震に伴う大火災に備えて耐震貯水槽が設置され、合わせて3千トンの水が蓄えられている。

横浜市鶴見区の曹洞宗大本山総持寺と神奈川県警鶴見署は8月に、大規模災害で鶴見署が使用不能になった場合、署の機能を同寺の施設に移せるとする協定を締結。東京都台東区の聖観音宗総本山浅草寺は6月に、台東区と帰宅困難者の一時滞在施設に関する協定を結び、兵庫県多可郡仏教会も5月、多可町と緊急避難所提供の協定書を交わしている。

寺と警察の防災提携などはこれまで例がないとみられるが、いつ起きてもおかしくない大災害に備え、地域社会で重要な位置を占める寺社も従来の考え方にとらわれず防災対策を足元から見直す必要性が高まっている。

今回の調査は公共性を期待される大寺院に共通する課題を示唆する。