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時流ワイド

宗教者にiPS細胞を聞く(2/3ページ)

2012年12月11日付 中外日報

iPS細胞研究と生命倫理――再生医療に期待、生殖には危惧

中外日報社のアンケートは、iPS細胞研究の生命倫理上の問題を踏まえ、再生医療や生殖医療への応用の可否、規制の必要性、宗教界の対応の在り方などを個々の宗教者に聞いた。

381人の回答で、iPS細胞研究に興味を持つとした人は89・8%、同研究に生命倫理の問題があることを知っている人は74・5%だった。生殖医療への応用に反対の立場は65・9%、規制が必要は51・2%とそれぞれ過半数を占め、生殖医療への応用に多くの宗教者が生命倫理上の問題を危惧していることが浮き彫りになった。こうした「いのち」に関する科学・医療技術に対し宗教界はどう対応すべきか。この問いに、宗教界または教団・個人で何らかの対応をすべきだと69%が回答し、宗教界の行動を促している。アンケートの回答率は68・6%。(生命倫理問題取材班)

宗教者アンケート 生殖へ「応用ノー」6割超 宗教界の対応必要

アンケートは、宗教界全体から幅広く意見を求めるため、各教団名簿から無作為抽出した先へ電話などで行い、また別に通常の取材先などからも具体的な意見を聞いた。
対象はいずれも多数の教団に分布し、仏教では天台宗、高野山真言宗など10大宗派ほか、神社、カトリックやプロテスタント、天理教、金光教、立正佼成会など教派神道や新宗教も含まれる。調査期間は11月中の1カ月間。
アンケート「宗教者にiPS細胞を聞く」グラフ

iPS細胞は、皮膚細胞などの体細胞を特定の遺伝子の導入によって「初期化」し、受精卵のように体のあらゆる部分の細胞に変化できる能力(多能性)を持たせた細胞。山中教授がマウス、人間の細胞で初めて作製に成功した。

失われた組織や器官をよみがえらせる再生医療や難病の病態解明、治療薬開発などに期待が寄せられる一方、精子・卵子を作製して不妊治療などの生殖医療に応用することも可能とされ、生命倫理にも「たいへん重い問題」(山中教授)を投げ掛けている。

質問1は、iPS細胞研究についての興味の有無。「興味があり内容を多少理解」「興味があり内容はあまり知らない」を合わせると89・8%となり、宗教者の関心の高さがうかがえる。

質問2は「iPS細胞研究に関し、生命倫理問題があることを知っているか」と、問題への認識を聞いた。知っている人は74・5%だった。宗教者以外の人との比較はできないが、各種報道ではiPS細胞への"期待"の陰に隠れがちなテーマだけに、数字は高い水準にあるとも考えられる。

質問3は「iPS細胞研究の活用、人間の医療への応用について」。回答は「再生医療には応用すべきだが生殖医療は除外」が65・9%と最多で、「生殖医療も含めあらゆる応用を進めるべきだ」が10%、「医療に使うべきでない」が3・9%だった。

回答者からは「生殖細胞の作製は人間生命の尊厳性を侵す。神仏が定めた男女の生殖のあり方に離反する」(天理大教授)、「同性配偶による子の誕生やクローンの問題もある。ラディカルに何でもやるのは危ない」(キリスト教牧師)、「人間が神の手を持ち、自然を逸脱してもいいのか」(真宗大谷派住職)など、再生医療は肯定しつつも生殖医療への応用に反対する意見があった。

再生医療についても「要は延命治療。いのちの基本は生老病死だ」(真宗佛光寺派住職)、「寿命は神仏から『与えられた』もの」(曹洞系公益財団法人理事長)、「高額を支払えば成立する『差別医療』を助長する」(臨済宗妙心寺派住職)など、仏教的死生観や経済的平等性の観点から疑問を呈する見解があった。

「不治の病に苦しむ患者さんがいる限り、さらなる研究を」(曹洞宗住職)と再生医療推進を望む声も多く寄せられた。

平成22年5月告示の文部科学省「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」では、基礎研究に限り生殖細胞の作製は認められているが、作製した生殖細胞を受精させることは禁止されている。

質問4は、iPS細胞研究をはじめ「いのち」に関する科学・医療技術研究の規制の必要性について。「生殖の研究は規制すべきだが、それ以外はあまり規制すべきでない」が51・2%、「規制はなるべくしない方がいい」が15・5%、「いかなる分野も規制すべきだ」が13・6%だった。生殖分野への規制を求める回答が最も多く、質問3で生殖医療への応用を進めるべきでないとする回答と表裏の関係にあるとみられる。

「コスト以外の歯止めとなるのは宗教的な背景を持つ生命倫理的評価」(浄土系研究所副所長)、「問題は科学者、社会のモラル。モラル形成に宗教者は役割を果たせる」(妙心寺派師家)など、規制の背景となる社会的合意の形成に宗教界が寄与すべきだとの意見が見られた。

質問5は、「いのち」に関する科学・医療技術全般に宗教界はどう対応すべきか。「宗教界、各教団が社会に働きかけをすべきだ」が49・4%、「宗教者個人で対応」が19・6%、「医療・科学の専門家に任せる」が12・7%だった。

コメントでは「教団レベルで検討し、一人一人が見識を持ち、意見を発信すべきだ」(浄土真宗本願寺派住職)、「全日本仏教会にiPS細胞の検討チームを」(高野山真言宗住職)など、宗教界の監視や宗教界内部の議論、科学・医療者との議論、社会への発信を訴えるものが多かった。

一方で「教学的に白黒付けられる問題ではなく、各宗教者がそれぞれの立場で発信すべきだ」(神社宮司)など、教団レベルでの発信は意見の多様性から困難として、各個人での対応を求める意見も見られた。

質問3・4・5では「判断できない。分からない」がそれぞれ20・2%、19・7%、18・3%あった。