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時流ワイド

宗教者にiPS細胞を聞く(3/3ページ)

2012年12月11日付 中外日報

加藤眞三慶応大教授にインタビュー

宗教者の反対から生まれたiPS細胞 患者中心の医療を

肝臓病教室や慢性病患者の集まりなどを主宰し、患者中心の医療を推進する医師の加藤眞三・慶応大看護医療学部教授は「ES細胞に対する宗教者の反対がなければ、iPS細胞は生まれなかった」と話す。iPS細胞が抱える倫理的な問題や、宗教者に求める発言などについて話を聞いた。

宗教者のES細胞への反対があればこそiPS細胞が生まれたと話す加藤眞三教授
宗教者のES細胞への反対があればこそiPS細胞が生まれたと話す加藤眞三教授

かつてES細胞(胚性幹細胞)が問題になったが、どのような立場か

私はES細胞の研究には反対でした。人としてのポテンシャルをしっかりと持っている細胞であり、これをさまざまな実験に使うこと自体、かなり倫理的に問題がある。iPS細胞は、この問題を突き破った。また、自らの細胞から作った臓器を移植することが可能になり、移植の拒絶反応を心配しなくて良いという大きなメリットもある。

iPS細胞研究で、再生医療と生殖医療それぞれにどんな問題があるか

ES細胞は卵子を取り出して作ることから作製自体に倫理的問題があったが、iPS細胞はそれを解決したので、今度は利用する時に、どのような問題が生じるかに議論が移るだろう。生殖医療では、理論的にクローン人間を作ることなども可能だが、かなり問題があり、まだまだハードルが高いと言える。

再生医療でも問題はなくはない。功を焦って、安全が十分に確かめられていないのに人に利用することなど。人への応用は慎重にあるべきだ。

iPS細胞はがん化の可能性も指摘されているが

がん細胞とは、いわば幼児化した細胞。人間の体は元々1個の細胞が分化し、いろんな細胞や臓器になる。分化した細胞は、それぞれの場所に応じて信号を受けながら必要な役割を果たし、いわゆる大人になった細胞と言える。ところが時々、幼児化した細胞が現れ、与えられた場面をよく理解できず、どんどん広がって周りの細胞に迷惑を掛ける。こうしたものががん細胞だ。iPS細胞はどこにでも変化できることから、幼児化した細胞とも言える。いろんなポテンシャルを持った細胞に戻すという意味においては、がん細胞に似た性質を持っており、がん化しやすい性質は備えていると考えられる。

iPS細胞で簡単に腎臓や肝臓ができると思われがちだが、臓器は立体的で、生物の中でしか作ることができない。そうすると、臓器を作るために結局、殺すための生命を作る、もしくはそれに近いことが行われる可能性がある。

規制はどのようにすべきだと考えるか

国際的な協調の中で規制しないと、抜け道が多くあって意味がない。競争分野だから、予算が付く所に研究が集まる。私はこうした先端技術にばかり注目が集まること自体、社会がゆがんでいると思う。医療全体を考えると、先端技術を次々に開発するよりも、生活習慣病への対処に、しっかりとお金を掛けた方が役に立つ。

生活習慣病予防は一般受けしない。そこには「自分は努力したくない、周りが変わってほしい」という思いがある。

病気になっても、移植すれば済むと考えてしまえば、自分は変わらなくても良い。そうではなく自分が治していくことを「患者力」として、その大切さを訴えたい。

宗教者の発言は、科学や医療の問題に影響を与えると思うか

宗教者はこうした問題に対し、積極的に発言するべきだ。科学の行き過ぎに抑制をかけるのは、宗教者の力に負うところが大きく、科学の良い発展につながる。

例えば、ES細胞ができた時はカトリックが強く反対し、米国でこれを受け、ブッシュ政権が研究を規制した。だからこそ、iPS細胞の研究が生まれ、宗教者の発言によって科学が良い方向に進展した一つの例だ。

宗教者に求めることは

現在の医療は、病気を科学的に捉え、物質レベルでの理解で進み過ぎている傾向がある。患者不在で病気を扱っているが、病気は患者と共にある。取りあえず、臓器を取り換えれば治るということではない。人はそれぞれ社会的、経済的な問題を抱えている。社会的な問題として病気を捉える視点、理解を宗教者にも持ってほしい。