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時流ワイド

進む文化財デジタル化(2/5ページ)

2013年2月14日付 中外日報

寺社の文化財にITの熱い眼差し 高精細画像から用途拡大

印刷とは思えないほど、精密にデジタル保存された仏像や影像、書画――。劣化を恐れて常設展示できないオリジナルの代わりに公開することで、より多くの人が祖師や先達、芸術家らの宗教観や、寺社が持つ宗教空間に触れることができる。また、高精度の画像データを観察することで、画材や用いられた技術を詳しく分析することも可能だ。

IT技術の発達で、可能になった文化財のデジタル化。単に複製の制作にとどまらず、アーカイブをウェブ上で公開すれば大きな魅力を持つため、伝統文化財を多く所蔵する寺社は現在、研究者や印刷業界の関係者らから大きな注目を集めている。(闇雲啓介・山縣淳・武田智彦)

保存と公開の両立

デジタル技術を用いて復元したベゼクリク石窟寺院の壁画と入澤崇氏=龍谷ミュージアム
デジタル技術を用いて復元したベゼクリク石窟寺院の壁画と入澤崇氏=龍谷ミュージアム

今年、鑑真和上1250年御諱を迎える奈良・唐招提寺は記念事業として、鑑真和上坐像(国宝)を高精細画像でデジタル撮影した。同坐像は日本最古の肖像彫刻として知られるが、奈良時代に制作されたため経年劣化が懸念材料。そこで像の撮影に加え、形状や色彩を計測し、データで保存することにした。

作業を請け負ったのは凸版印刷。像に縞模様のパターン光を投影し、94方向から計測することにより像の寸法を3次元で計測。正面、背面、両側面の58点で色彩のデータを採取した上、計72億画素に及ぶデジタル画像を撮影した。

唐招提寺は、鑑真和上坐像の身代わりになる模像を制作中で、凸版印刷が取得したデータは模像制作に活用されたり、オリジナル像の修復などに利用されるという。

デジタル技術の応用は複製の作製だけにとどまらない。

一昨年、開館した龍谷大学龍谷ミュージアム(京都市下京区)で展示されている中国・新疆ウイグル自治区のベゼクリク石窟寺院の回廊は、欧州やアジアの6カ国に散在していた壁画をデジタル技術で復元したものだ。

同寺院はシルクロードの要所・トルファンの近郊に位置し、マニ教を信仰した西ウイグル王国(9~12世紀)が仏教を受容する中で最盛期を迎えた。しかし、王国の滅亡とともにイスラム化が始まり、石窟が発見された19世紀当時、内部の壁画は落剥したり破壊されたりしていた。

復元作業は龍谷大とNHKが協力し、平成15年から始まった。各国の調査隊が持ち帰ったりしたことで、ドイツやイギリス、ロシア、韓国などに散在する壁画の部分部分をデジタル撮影し、それぞれを組み合わせていく。失われた箇所は、他の石窟などの似たような図柄を参考に復元した。最後は漆喰を塗ったように見える用紙に復元した画像を顔料で印刷し、ほぼ同じ大きさに回廊を再現したミュージアムの壁面に張り付けた。

作業が終わったのは3年後。地道な工程を経て、過去仏に前世の釈尊が一切衆生の利益安楽を誓う様子を極彩色で描いた壁画をよみがえらせた。

作業に携わった同ミュージアムの入澤崇・副館長は「散在している壁画の復元はデジタル技術がなければ不可能だった。世界中の人々が等しく文化財を享受するためには、この技術が欠かせない。ミュージアムを訪れてもらうことで、現地の宗教空間をリアルに感じ取ってもらうことができるはずだ」と胸を張る。

国内で文化財をデジタル保存しようという動きは1990年代後半から始まった。文化財が多い京都では、二条城の障壁画や大徳寺聚光院のふすま絵などをデジタル画像で保存。近年は有名社寺だけでなく、一般寺院にも広がりを見せている。

兵庫県香美町の高野山真言宗大乗寺は平成21年、旧香住町の事業として所蔵する円山応挙のふすま絵46面を撮影し、愛知県立芸術大の吉本弘・名誉教授の監修で再製画を作製。オリジナルは収蔵庫で保管している。ただ、真筆が確認できない部分や色彩の再現などは吉本名誉教授の創作として制作したが、地元でも賛否両論あるという。

このほか、大津市の義仲寺や和歌山県串本町の無量寺、京都府京田辺市の酬恩庵一休寺などで天井画やふすま絵などがデジタル化されている。