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時流ワイド

「ゆりかご」の子どもたち(2/5ページ)

2013年2月28日付 中外日報

小さな命の尊厳を守る取り組み 「こうのとりのゆりかご」設置6年

熊本市の慈恵病院はカトリックの教えを運営理念とする総合病院。生まれたばかりの赤ちゃんが遺棄され、いのちを失う事件が相次ぐ中、平成19年5月に、望まない妊娠などによって親が育てることのできない赤ちゃんを無人の窓口で受け入れる「こうのとりのゆりかご」を開設した。

当初、「赤ちゃんポスト」の名称で報道された影響もあり、「子どもはモノではない」「子捨ての助長につながる」という厳しい批判など賛否は分かれたが、開設から昨年春までの5年間に83人を受け入れるとともに、悩みを抱える親の相談を数多く受けて解決に導くなど「小さないのちの尊厳」を守るための取り組みは、多くの人の理解と支持を得てきている。(河合清治)

こうのとりのゆりかごが設置されている慈恵病院のマリア館
こうのとりのゆりかごが設置されている慈恵病院のマリア館

扉の前で立ちすくむ少女

ある冬の夜、こうのとりのゆりかごの扉が開き、小児科・産科病棟の新生児室とナースステーションのブザーが鳴り、モニターに一人の赤ちゃんが映し出された。医師と医療スタッフが駆け付けると、へその緒の付いたままの新生児。緊張が走る中、すぐに体温、心拍など健康チェックが行われ、無事が確認されると安堵感が広がった。

こうのとりのゆりかごは小児科・産科のあるマリア館の玄関から少し離れた東側の外壁に約60×50センチの扉が設けられ、赤ちゃんを預け入れることができる。

健康チェックと同時に田尻由貴子・看護部長の元にも連絡が入った。いついかなる場合でも預け入れがあるとすぐに駆け付け、適切な処置を指示し、関係機関への通報などの対応を行うのが責任者である田尻看護部長の務めだ。佛教大を卒業後、キリスト教の看護学校で学んだという同看護部長の献身的な働きぶりは有名で、人を温かく包み込むような優しい人柄で慕われている。

匿名で預け入れることができるのが大前提のため、外側には監視カメラ等はなく、基本的には母親など預けに来た人と接触することはない。

だが、この日は違った。扉の前でずっと一人の少女が立ちすくんでいたのだ。いつまでも立ち去ろうとしないため、看護師が少女に声を掛け、面談室で田尻看護部長が少女の話を聞いた。

県外、それも九州から遠く離れた都市から一人で来た高校生だった。恋人との間の予期せぬ妊娠。自分が悪いことをしているという罪の意識から親にも誰にも相談できないままで、家族が出掛けて留守の間に自宅で一人で出産していた。

自力(自宅)出産はとても危険だ。何とか無事に産まれたとしても産後の適切な医療処置がないと、出血や感染症等で母子ともにいのちに危険が及ぶ。それに加えてそのまま遠い距離を移動するなど途中で命を落としてもおかしくない無茶な行為だ。しかし、孤立し、追い詰められた少女はそうするしかなく、慈恵病院を目指した。

面談室で少女は、これまで誰にも話すことができなかった思いを田尻看護部長に打ち明けた。泣く少女を抱き締めて田尻看護部長はこう言った。

「よくここまで来てくれたね。赤ちゃんのいのちを助けてくれてありがとう……」

こうのとりのゆりかごがなかったら絶たれていたかもしれない小さないのち。自分のいのちの危険も顧みず、力を振り絞って遠く熊本までやって来た若過ぎる母親の勇気と愛情に対する心からの感謝だった。