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時流ワイド

「ゆりかご」の子どもたち(5/5ページ)

2013年2月28日付 中外日報

親への手紙で連絡、解決も

相談機能の強化のため「赤ちゃんの受け入れは、あくまで緊急避難の手段。相談での解決が望ましい」との運営方針を掲げた。

こうのとりのゆりかごの扉のそばには相談するためのインターホンが設置され、看板等で相談することが促されている。さらに内部の赤ちゃんを置く場所には「もう一度、赤ちゃんを引き取りたいときには、信頼して、いつでも連絡してください」といった手紙が置かれ、連絡方法が書かれている。7割を超える親がその手紙を持ち帰り、これまでに13人が実際に実親の元に引き取られている。

うれしいケースもあった。留学を控えていたという10代後半の少女が、誰にも相談できずに一人で自宅出産し、こうのとりのゆりかごに預けた。田尻看護部長の働き掛けもあり、母親に打ち明けると、驚いてすぐに赤ちゃんを引き取りに。母親は娘を叱ることはなかった。そして少女は留学を諦め、通信制の高校に切り替えて両親、祖父母の協力も得ながら子育てし、赤ちゃんの父親の交際相手とも結婚。苦難を乗り越えて家族4世代の絆が深まったという。

里親養育や養子縁組も

預けられた子どもは、棄児・要保護児童として児童相談所へ一時保護される。預けた親が罪に問われないということ以外は、他の棄児の扱いと同じだ。身元が判明した場合には親の居住地の児童相談所へ送致され、判明しなければ熊本の乳児院、児童養護施設への入所措置や、児童相談所に登録されている里親へ養育委託される。昨年春までに預けられた83人のうち、17人が里親に養育委託され、さらに9人が新しい親と特別養子縁組を結び、新しい両親の実子として育てられている。

匿名性で孤立化を防げる

こうのとりのゆりかごに頼らなくても、諸事情により産んだ赤ちゃんを育てることができなくなった場合に利用できる社会制度は児童相談所などがある。虐待事件の報道の影響で被虐待児の保護のための施設というイメージも強いが、遺棄児の保護のほか、望まない妊娠をした人の出産前、出産後の相談にも対応している。

では、なぜ今、こうのとりのゆりかごが必要なのだろうか。その理由はまず匿名性だ。出自が不明になるという問題点もあるが、匿名が保たれることにより、罪の意識から身元を明かしたくない人でも利用できる。また、児童相談所の存在や業務内容の周知度が低いことも問題で、特に誰にも相談できずに一人悩み、孤立してしまった人に対しては機能を果たしていないというのが現実だ。

さらにこうのとりのゆりかごには「目の前で困っている人を助けずにはいられない」「神様から授かった大切ないのちを守りたい」という強い宗教心と信仰心が込められている。匿名での受け入れに道を開いたことも含め、受け身ではなく、困っている人に向けて一歩も二歩も踏み込んだ献身的な救済への行動がなされていることが必要とされる最大の理由だろう。

そもそも孤児救済や里親、養子縁組などはもともと、寺院や教会などで昔から自然と行われていたものだ。寺院や教会などに併設される児童福祉施設や孤児院は今も多く、宗教関係者が里親や特別養子縁組を支援する組織もある。昭和56年に設立された天理教里親連盟などが知られている。

命を救うことが最優先

こうのとりのゆりかごの役割に対して、熊本市が専門家を委員として設置している検証委員会は一定の評価をしながらもこれまでの事例から「安易な預け入れが見られる」などの問題点を指摘。

一方、「熊本県いのちの懇談会」代表を務める湯田榮弘・加藤神社宮司は「さまざまな困難があるが、絶対に負けてはいけない。いのちの問題に対して妥協はない。匿名、出自などの問題等いろいろなこともあるかもしれないが、まずはいのちを救うことが最優先」と語っていた。