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時流ワイド

社会むしばむ「いじめ」(2/4ページ)

2013年4月27日付 中外日報

子どもらの悲痛な心の叫び 宗教者は何ができるのか

子どもたちの電話相談に応じるNPO法人の関係者は、約10年前にホットラインを開設した当初からベルが鳴りやまず、その多くはいじめに悩む子どもたちだったと言う。教師や親、そして周りにいる大人たちには相談できないが、友人らから見捨てられて孤独にさいなまれているこの気持ちを誰かに受け止めてほしい、そんな悲痛な心の叫びを抱えた子どもたちがたくさんいる。大津市の公立中学に通う2年生男子がいじめを苦に自殺した問題が明るみに出た昨年8月に、同市で教職員らが開いた緊急シンポジウムでは「自分は生きていていいのだという気持ちを心の根っこのところで育めない子どもたち」に教育者や周囲の大人はどう向き合っていくべきかをめぐって議論が交わされた。いじめの問題で宗教者が果たすべき役割は何か。(赤坂史人、闇雲啓介、飯川道弘、西谷明彦)

心の成長段階を見抜く

いじめや不登校、引きこもりなど家庭の問題を抱えた少年少女を無償で自坊に預かってきた浄土宗西居院(愛知県岡崎市)の廣中邦充住職(62)。これまで900人以上の児童や青年と向き合い、彼らの成長を手助けしてきた。中には、いじめを苦に自殺してしまった子どももおり、廣中住職は「いかに子どもたちの心に伝わる言葉を話すかが大切。これからの教育は"響育"でなければならない」と話す。

自坊で子どもたちを預かり始めたのは20年ほど前からだ。長男の中学進学でPTA会長を任されたことなどから、学校や警察、地域の保護者から相談を受けることが増えた。

何か特別なことをするわけではない。抱っこが必要であったり、手を握ってやらねばならなかったり、一方であいさつで声を掛けてやるだけで十分な子どももいる。拒食症の運動選手を預かった時には、朝食に1時間、夕食に2時間、付き添った。それぞれの心の成長段階を見抜くことが大切という。

欠かさないのは、毎朝の通学の見送り。多いときで、一度に預かった人数は約20人。電車通学の高校生を自動車で駅に届け、中学生や小学生を見送るまで午前6時から3時間かかる。弁当も作って持たせる。ただ迎えは甘えにつながる恐れがあるので、していない。

西居院に駆け込んでくる子どもたちには、学校でのいじめが原因である子も少なくない。横浜市に住むリコ(小6)は2年前、同じクラスの女児5人から仲間外れに遭うようになった。次第にいじめはエスカレートし、携帯電話に脅しのメールが来るようになり、学校に行けなくなった。

10月のある日、思い詰めたリコが自宅の公営住宅の4階から飛び降りようとした。それを見つけて食い止めた母親が、事態の深刻さに気付き、親子で西居院に駆け込んできた。すぐさま廣中住職は学校と教育委員会に連絡し、対応を求めた。当事者の児童同士の話し合いが持たれたが、いじめた側はリコをにらみ付けるだけだった。リコは結局、楽しい思い出をつくるはずだった修学旅行を欠席した。

廣中住職はその代わり、新潟の教育関係者に招かれた講演旅行にリコを同伴した。講演の中で彼女を「いじめと闘う少女」と紹介したところ、会場は万雷の拍手に包まれ、リコは安心したように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。拍手をもらえたことがきっかけになってか、12月に入るとリコは登校を再開。校長室までクラスの仲間十数人が迎えに来てくれた。

「逃げるな、逃げると追われるぞ」。子どもたち自身が強い気持ちで問題に立ち向かう姿勢が大切だと話す。

家庭の異変に気付いて

一方で、救えなかった命もある。名古屋市のケンジ(中3)は、食い逃げで補導されたことがきっかけで、廣中住職の世話になった。少年院に収容されたが、開業医の父親の背中を追って医師を志し、北海道の私立高校に進学。しかし、そこでもトラブルに見舞われ、転校した宮崎県の私立高ではいじめに遭った。

寮生活の中で先輩3人に目を付けられ、夜、たばこや食べ物を買いに行かされる。代金は払ってもらえず、少しでも門限を過ぎれば殴る蹴るの暴行を受けた。耐え切れなくなって自宅に戻ると、あざだらけの顔に母親が驚いた。

急ぎ母親は廣中住職に来てほしいと電話したが、住職は講演を依頼された先におり、講演を終えた後、駆け付けた時にはケンジは自宅のクローゼットで自ら命を絶っていた。首をつったのは、いつも暴行が始まる午後10時のことだったという。

「いじめの解決は一にも二にもスピード。すぐに駆け付けてやることができれば……」。今も後悔の念が残る。

いじめに社会や家族、学校、そして宗教者はどう向き合わなければならないのか――。廣中住職は「いじめる側もいじめられる側も、多くは家庭に問題があることが多い。大津市の中学2年生が自殺した問題でも、両親が別居中で、生徒が救いを求めたのは祖母だった」と話す。

子どもの問題を解決するため、廣中住職は両親と子どもから、誕生から現在までの成長記録を丹念に聞き取り、成長を阻む根本的な原因を探る。月参りなどで定期的に各家庭を訪れる機会が多い僧侶は、家庭の異変に気付く機会が多いはず。そこで何ができるかが大切だ。「殺すな、盗むな、うそをつくなといった五戒を僧侶が自信を持って強く訴えれば、きっと社会は良くなるはず」。廣中住職はそう信じ、今日も子たちと向き合う。

(文中の年齢は当時)