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時流ワイド

死刑存続風潮の中で(2/4ページ)

2013年8月22日付 中外日報

死刑で何を償わせられるのか

死刑執行時に真宗大谷派、大本、日本カトリック・正義と平和協議会などのように反対声明を発表する教団もあり、また天台宗は「死刑制度に関する特別委員会」が死刑廃止の見解を表明しているが、教団レベルでこの問題に意思表示する教宗派は、必ずしも多くない。

内閣府の世論調査によると、20年ほど前の日本では、およそ7割の人が死刑存続に賛成し、その後増加して、最新調査の平成21年には85・6%に達したという。存続の理由として過半数の人々が挙げるのは、被害者感情の尊重や犯罪抑止力であり、「命をもって償うべきだ」とする考え方である。死刑の犯罪抑止力については否定する意見も強いが、宗教者の課題は、重く大きいと言わざるを得ない。(萩原典吉、池田圭)

元法務大臣の杉浦正健氏に聞く

終身刑の導入を提案 罪は生きて償わせる

杉浦正健・元法相
杉浦正健・元法相

第3次小泉改造内閣で法務大臣を務めた弁護士の杉浦正健氏(79)は、法相在任中に死刑を執行しなかった。日本弁護士連合会で死刑廃止検討委員会顧問を務め、真宗大谷派の門徒でもある杉浦氏は「加害者といえども、人は命を頂いて生きている。罪は死刑によってでなく、生きた形で償わせるべきだ」と主張する。氏に、死刑制度に反対する理由や代替案、宗教者への期待などを聞いた。

法相就任時に「死刑執行にサインしない」と言われましたが。

就任の記者会見で、その質問は想定しておらず、自分の本音が出た。大騒ぎになることは避けたいと思い、「あの発言は法相の職責を言ったのではなく、あくまでも自分の信条だった」と訂正した。

しかし結果的に11カ月の在任中、サインをされなかった。

就任後、死刑問題に真剣に向き合い、考え始めた。今は死刑を廃止すべきと思っている。

私の家はお東で、三河一向一揆を戦った上宮寺(愛知県岡崎市)の檀家。明治生まれの祖母は文字が書けなかったが、「正信偈」などを覚えていた。

そこで人間観や生命観を学ばれたと。

そうです。私も中学生まで朝夕、毎日「正信偈」を唱えた。それを記者会見の時に思い出した。生きとし生けるものは命を頂いて生きていると。

法相を退任された今、より死刑廃止を鮮明に訴えられているようですが、そのきっかけは。

やはりEUが死刑を廃止したことが大きい。歴史的に革命や戦いを繰り返してきた国々が廃止した。米国でも18州が廃止している。

その根本には人権の意識がある。被害者も人間ならば、加害者も人間。国家はわれわれに「殺すな」と言いながら、加害者を殺すのは矛盾する。欧米の死刑廃止の根底にはキリスト教があると思う。

廃止した場合、代替案をどう考えますか。

終身懲役刑がある。仮釈放無しで一生、刑務所で働かせる。命は奪わず有益な仕事に就かせて報酬を与え、被害弁償の一部に充てる、という考え方もある。

日弁連で米国テキサス州を視察した時、終身懲役刑を導入し死刑が激減したという。ただ将来、死刑が廃止されるかと尋ねると、警察のトップはそうならないと言った。警官を殺害した犯人を死刑にしないと士気が下がる、が理由だった。ただ、この5年間に警官殺害事件は起きていない。

日本でもいろいろ議論したい。世論の動向、判決の状況などを見た上で、国民全体がこれならいいと安心しなければならない。日本でも裁判員制度が始まった。終身刑を導入すれば、その判決が増えるだろう。

死刑を存続させねばならないと考える人々の主張は何でしょうか。

やはり被害者感情です。国民世論は70~80%が死刑存続に賛成している。被害者団体も加害者を決して許さないと。それが強い意見としてある。

被害者感情をどう思いますか。

実際被害に遭った人には当然だと思う。だが、だからといって、加害者を殺さねばならないのだろうか。

ただ思想や哲学の問題になると、永久に交わらない。EUでも英国でも死刑存続論が多く、世論は60%くらいが死刑に賛成していると思われる。

それでもEUが廃止に踏み切ったのは。

為政者の判断です。ノルウェーがよく引き合いに出される。政府提案で国会に提出した。その第一の理由は死刑は残虐な刑、第二は国が国民に殺人を否定しておいて、死刑制度を持つのは矛盾していること、第三は冤罪の可能性。

冤罪ではなく、明らかに本人の犯行で、加害者自身が死刑を望むケースでも、死刑に反対ですか。

そう思う。死刑にして、何を償わせるのか。死刑にしても、被害に遭って亡くなった人は帰ってこない。

韓国は15年間、死刑を執行していない。カトリックが中心になって加害者と話し合い、全てとは言わないが、加害者を許す被害者遺族がいる。人間には慈悲心がある。加害者が犯行に至った生い立ちもあり、迫害されてきた環境もある。もちろん犯行は許せないが。

宗教界に対して思われることは。

元・受刑者を受け入れている寺院もある。お寺さんも神主さんももう少し、元・受刑者に向き合ってほしい。彼らを泊めて庭掃除を担当させるとか、その苦しみを理解するなど、お寺が何かをしてくれるだけで変わると思う。

自殺も毎年3万人。死刑どころの人数ではない。せっかく生を受けたのに自分を殺している。仏陀は皆が仏性を持つと言われた。正しい道を悟り、それに目覚めて生を全うする。われわれをそういう道に導いてほしい。

日本で死刑が廃止されると思いますか。

世界の趨勢もあり、そうなると思う。今、国会に死刑廃止の小委員会を設けてほしいと、個人的に縁をたどり、日弁連として働き掛けています。