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時流ワイド

寄り添い看取る僧侶たち(3/5ページ)

2013年9月26日付 中外日報

城陽・あそかビハーラの山本成樹氏

137人の遺言胸に日々歩む 思い出は過去でなく現在

入院患者の世話をする山本氏
入院患者の世話をする山本氏

浄土真宗本願寺派がビハーラ活動の理念に基づいて、末期がん患者らの緩和ケアを行うため平成20年4月に京都府城陽市に開設した「あそかビハーラクリニック」。同派僧侶の山本成樹氏(46)がビハーラ僧としてクリニックに常駐するようになって2年5カ月が過ぎた。日々、患者の「人生の最終章」と向き合い続け、今年8月末までにみとった患者は137人。その一人一人から受け取った"遺言"と共に歩み続ける、山本氏はそれが自らの務めだと言う。

――入院患者の約9割は他宗派の信者や無宗教の人たち。クリニックでは患者に浄土真宗の信仰を強制することはないが、毎日夕方にビハーラ僧による法話会が開かれ、患者や医師、看護師など職員が聴聞する。

ビハーラ僧となって約1年が過ぎたころに末期がんに侵された80歳代の男性が入院してきた。

会社を起こし経営していたが、「将来は会社を任せよう」と目を掛けた社員が次々とライバル会社に引き抜かれた。「また裏切りやがって」と社員を、そしてライバル会社を何度恨んだことか……。

「過去は変えることはできないが、過去の出来事の意味を変えることはできる」

山本氏の法話を聴いた男性は後に「思い通りにいかなかったから私の人生はまともだったのかもしれない。あの躓き、あの嫌な日々が無かったらどうなっていたことか」としみじみと過去を振り返った。

そして「山本さんの言う通りや。恨んだこともあったが、社員の引き抜きに遭ったのも私が至らなかったから。『よく引き抜いてくれた』とライバル会社に感謝したい」と話したが、その言葉に胸を打たれた。

――ビハーラ僧は医療関係者やボランティアと共に緩和ケアチームの一員。「死んだらどうなるの」などと不安にさいなまれた患者の精神的な悩みに寄り添うことが大切な役割だが、それだけではない。少しでもその人らしい人生を全うしてもらえるようにと、患者の生活環境を整えることも大事な務めである。

ある日、病室から見える庭の草取りをしていると、大腸がんの手術を拒否してクリニックに来た女性患者が、ベッドから下りて床に正座、そして涙を流しながら山本氏の背中に向かい合掌していたという。その様子を看護師から伝え聞いた時、「病気で大変なのにそんなことを」と胸がいっぱいになった。

こうした患者の言葉や姿に接するうちに、遺言とは臨終の間際に聞く言葉じゃない、遺された側が確かに受け取っていかなければならない言葉や言動なのだ、との思いが強くなっていった。

「ここで亡くなられた患者さんたちの遺言をしっかり受け止めさせていただき、亡き患者さんたちと一緒にこれからも自らの務めを果たさせていただきたい」。山本氏の脳裏には、これまでに出遇った患者一人一人との思い出が今もしっかりと息づいているという。

「思い出は過去形ではなく、現在進行形です」

――クリニックには、山本氏、そして花岡尚樹氏、永江武雄氏の3人のビハーラ僧が常勤する。入院外来の玄関を入ってすぐの所にビハーラ僧の部屋がある。入り口にはボランティアが描いた3人の似顔絵と「ビハーラ僧。ヒト科…」との"説明書"が貼られ、最後には「天然記念物?」。

患者の気持ちを少しでも和まそうとする"遊び心"だろうが、一般の人たちには、ビハーラ僧とはそんな希少な存在と見られている、との思いもあるのか。

山本氏に問うと「クリニックや病院で働くからビハーラ僧だとは思わない。人々の老病死の苦悩に寄り添うビハーラ活動は仏教の原点であり、僧侶自身がその原点に返っていくべきだと思う」と答えた。

ことさらに構えて「ビハーラ」「ビハーラ僧」と言う必要のない時代が来てほしい。それが山本氏の願いだ。