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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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社会を耕す言葉を墨書

滋賀県東近江市・浄土宗法泉寺 増田洲明住職

2015年3月4日付 中外日報(キラリ ― 頑張る寺社・宗教者)

自作の書を広げる増田住職
自作の書を広げる増田住職

「雨音は 仏の聲よと 蛙がねん佛」。手作りの和紙に、温かみのある文字が躍る。滋賀県東近江市の増田洲明・浄土宗法泉寺住職(68)は、生活の中で生まれてくる言葉たちを墨書して、地域の図書館などで発表してきた。

「ののはな むしんに さいています」。か弱い命に寄り添う思いが、細くたおやかな線となり、見る者を穏やかにさせる書もあれば、「ながいものには まかれるな」と胸に迫ってくるような黒々とした文字が印象的な作品もある。

書作に使う和紙は、捨てたり、焼かれたりする反故紙を再活用して作る。墨がにじんだ黒い部分と余白の白い部分に選り分けて、丁寧に手漉きする。出来上がった紙は、これまで多くの紙を焼いてきたことへの申し訳なさと、新しく生まれ変わったことへの感謝を込めて「おわび紙」と呼んでいる。個性的で、味わい深い一枚一枚は、増田住職の創作に欠かすことができない。「全てのものは、存在そのものが役割。この世に用がないものはない」

寺は琵琶湖に注ぐ愛知川の近くにあり、周囲には自然豊かな田園が広がる。土への強いこだわりを持ってきた。作品作りのきっかけとなった言葉も、農作業の中から生まれてきた。

児童自立支援施設や知的障がい者更生施設に勤務していたが、1983年に退職し寺務に専念。翌年には「土と汗の会」を立ち上げ、知的障がいのある人との共同生活を始めた。畑を借り、農薬や化学肥料に頼らない農業を目指した。

3月下旬は、馬鈴薯の植え付けの時期となる。土を耕し、種芋を置いていくうちに、畝間に施した豚糞が気に掛かった。「誰もが嫌う存在だが、土の布団を掛ければ肥やしとなり、根を養ってくれる」。そう思った時、「土に埋もれてひかる糞」という言葉が湧き出てきた。和紙に書き付け、門前の掲示板に張り出した。言葉を紡ぐ面白さに気付き、創作活動の道が開けた。

増田住職は今、「社会という見えない土」を意識しながら書作に挑む。「この社会は、私たちが根を張っている土のようなもの。それを耕し、種をまいていくことができれば」と願っている。

(丹治隆宏)