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仏縁広がる家庭的な宿坊

京都市東山区・時宗長楽寺

2016年11月23日付 中外日報(キラリ ― 頑張る寺社・宗教者)

宿泊客のチェックイン手続きをする眞砂子さん
宿泊客のチェックイン手続きをする眞砂子さん

京都市東山区・時宗長楽寺の「遊行庵」は、牧野素山・前住職(77)と妻の眞砂子さん(72)が夫婦で切り盛りする、アットホームな宿坊として参拝者から好評を得ている。

長楽寺は壇ノ浦の戦いで入水した安徳天皇の母・建礼門院が出家したことなどで知られる。京都屈指の観光名所・祇園に程近い東山連峰中腹に位置する抜群の眺望は、文人の頼山陽から愛された。ただ、檀家は少なく、1999年に「一般の方への布教の縁を広げたい」と夫婦で宿坊の開業を発願した。

遊行庵は寺から徒歩約10分、八坂神社前に位置する鉄筋5階建て。京間8畳の客室6室、最大収容人数22人の小さな宿坊だ。希望者は写経室での写経や寺での早朝勤行、純山住職(45)によるお茶席などを体験できる。食事は朝食だけだが、眞砂子さん手作りの京都の家庭料理を心を込めて振る舞う。

夫婦とも宿泊施設経営は「全くの素人」。前住職が「開業当初は集客もままならず、近所の旅館からお客さんを回してもらったこともある」と言えば、「総代さんからは『本当に大丈夫か』とずいぶん心配されました」と眞砂子さん。

それでも風光明媚な長楽寺の境内環境や、とりとめのない話も丁寧に聞き取る二人の人柄などの評判が口コミで広がり、現在は行楽シーズンを中心に満室も少なくない。純粋な宿泊だけでも利用できるが、利用者のほとんどは寺への参拝が目的という。全国からリピーターも多い。

眞砂子さんは「『早朝勤行の前後で気持ちの持ちようが変わった』と喜ぶ人もいれば、チェックアウトぎりぎりの時間まで、いろいろな話をする人もいる。そんな会話がありがたい」とし、「誰でも受け入れるのが一遍上人の教え。大勢の人との出会いに恵まれたからこそ、ずぶの素人でもやってこれた」と話す。

前住職は「私はある苦しい思いを抱えていた若い頃、父(軆山・先々代住職)が無心で読経する姿に心の安らぎを感じる体験をした。それがきっかけで発心・出家した」と言う。その時感じた「心がほどけて、無心になる体験」を原動力に、一人でも多くの人に教えを伝えていきたいと願っている。

(池田圭)