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中国多発する焼身自殺 背景に宗教と民族抑圧

南山大教授 星野昌裕

2014年5月28日付 中外日報(世界宗教地勢)

中国

改革開放による経済発展が著しい中国において、マルクス主義を掲げる中国共産党は公式には依然として無神論の立場をとっている。しかし、チベット族とチベット仏教、ウイグル族とイスラム教といったように民族と宗教が密接に結びつき、また漢族の人々の間にも仏教やキリスト教が浸透している国情から、中国共産党はすぐに宗教を消滅させることはできないとしている。そして国外宗教組織からの支援や干渉を受けず、宗教活動場所を政府に登録し、中国の法律に違反しない範囲で宗教の信仰を認める政策を実施している。

これは別の見方をすると、どのような宗教をどのような形で信仰することができるのかについては、中国共産党の政治的意向が規制力として強く働くシステムになっているといえる。例えばチベット問題の核心の一つであるダライ・ラマ14世に対する信仰を認めるかどうかという問題は、中国共産党がダライ・ラマ14世を政治的に受け入れるかどうかの問題と切り離して議論することはできないのである。

ここ数年来、チベットで大きな問題となっているのが焼身自殺で、2009年から数えるだけで100人以上の広がりを見せている。時期による増減はあるものの今日もなお問題の終息にいたっていない。この背景には、ダライ・ラマ14世に対する公の信仰を認めることを政府に求めたり、チベットの伝統的文化を保持できなくなっている現状を国際社会に訴える意図があるという。

一部のメディアによると、チベット族が多く居住する四川省のある県で焼身自殺を防止するために次のような規定が定められたという。すなわち、焼身自殺したものの直系親族は国家公務員試験への応募資格や軍隊への参加資格などを失うこと、焼身自殺者の耕地や牧草地を取り上げること、直系親族の海外出国やチベット自治区への出入りを3年間禁止すること、焼身自殺が発生した寺院では仏教活動が制約されること、焼身自殺が発生した村からは保証金を取り消し、再発した場合にはそれを没収することなどの規定である。

チベットやウイグルに代表されるように民族や宗教の差異に起因する問題が頻発する中国において、引き続き強硬な政策が維持されるのか、あるいはその路線を脱して柔軟な政策によって多民族多宗教社会の人心を取り込もうとするのかが今後の注目点となるが、民族問題の視点から考えるとそう簡単に現行の政策を変更することはできない。

中国では「少数」民族とはいうもののチベット族は600万人、ウイグル族は1千万人を超える人口を持ち、少数民族が多く住む民族自治地方(自治区、自治州、自治県の総称)の総面積は全土の3分の2に上り、かつ周辺国との国境の大半が民族自治地方にある。

中国は人口の多い少数民族が、国境沿いの広大な領域に住む多民族国家であるために、アファーマティブアクション(差別撤廃措置)によって少数民族を取り込もうとするよりも、政治的安定や国家統合をいかに確保するかの観点から民族・宗教政策が立案されるのである。

グローバル化が進展する世界において国連五大国の一員である中国が普遍的価値観を共有するメンバーになることが望ましいが、そのような将来展望を描けるかどうかのメルクマールは多様な価値観を内包する中国国内の民族・宗教問題への対応にあると言ってよいだろう。

ほしの・まさひろ氏=専門は現代東アジア研究、現代中国政治、中国の少数民族問題。著書には『党国体制の現在』『中国は、いま』など。