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ブラジルキリスト教で地殻変動 信仰の個人化、流動化

天理大教授 山田政信

2014年6月11日付 中外日報(世界宗教地勢)

ブラジル

2014年FIFAワールドカップが6月12日から7月13日に開催されるブラジルのリオデジャネイロ市は世界三大美港のひとつとして知られ、海に迫る小高い山並みが風光明媚な景観を生んでいる。市内を見下ろすコルコバードの丘(海抜710メートル)には両手を開いた巨大なキリスト像が立っており、住民の日常生活にキリスト教が溶け込んでいることを知らしめている。観光客で賑わう有名なこの像は、20世紀初頭、ブラジルの国家形成期におけるナショナリズム醸成のためのイコンとして建てられた。

ポルトガル人による16世紀のブラジル「発見」以降、カトリック教会は長い間特権的地位を享受した。しかし、20世紀末に「異変」が訪れる。国民に占めるカトリック信者の割合に急速な減少が認められ、90%(1980年)から64・6%(2010年)に落ち込んだからである(ブラジル地理統計院調査データ)。

この「異変」の要因は、30年間に起こった無宗教の増加(2%から8%)もさることながら、プロテスタント人口の急増(6・6%から22・2%)にある。このうち聖霊の働きを重んじるペンテコステ派の信者が国民の13・2%を占めるようになり、特にネオペンテコステ派と呼ばれる教会群の活動が目立っている。そのなかで「神の王国ユニバーサル教会」(筆者訳)は他を抜きんでてきた。

同教団の信者数は国民の1%に届かない程度である。しかし、1977年の教団設立以後、約10年でテレビ会社を買収して独自の宣教番組を放映するに至り、人びとに違和感と脅威を覚えさせた。奴隷として連れて来られたアフリカの人々の宗教にカトリックや先住民の宗教が混淆して生まれたアフロブラジリアン宗教を敵視するほか、カトリック教会との軋轢も生んできた。

リオデジャネイロ市に二つの巨大なホール(2万人と1万人収容)を擁する教会を持つほか、国内のあらゆる地域に大小の教会がある。ラテンアメリカはもとより、ヨーロッパ、アフリカ、そして日本でも拠点を置く。

同教団の爆発的な伸展は、貧困層の入信によるところが大きい。80年代にラテンアメリカを襲った深刻な経済危機のもと、困窮する人々は教団が説く「繁栄の神学」に救いを求めた。経済的苦しみや夫婦仲の問題などの原因は悪魔にあると説き、悪魔祓いが盛んに行われた。

ところが、2010年までの10年間でユニバーサル教会の信者数は10・8%減少した。その一方で「神の力世界教会」(筆者訳)がその減少分を上回る程度の信者数を獲得し(31・5万人)、今日ではテレビ伝道で露出度を高めている。ユニバーサル教会の元牧師が1998年に設立した。ネオペンテコステ派では、ユニバーサル教会のクローン教会が他にも誕生し、宣教方法を踏襲して信者はもちろんのこと牧師をも集めている。

しかし、総じてネオペンテコステ派の教会では流動的な信者が多く、つながりは希薄である。また近年の自覚的なプロテスタント信者には特定の教会に属さない人が増えてきたとみられている。

ブラジルの宗教地勢にはこのような変化がみられるものの、キリスト教信者の総数は国民の86・8%にとどまっており、同国におけるキリスト教は依然支配的である。ネオペンテコステ派にみられる今日の新しい動きは、キリスト教内部に起こっている信仰の個人化を示していると思われる。

やまだ・まさのぶ氏=専門は宗教学、ラテンアメリカ地域研究、ラテンアメリカの宗教変容。共著には『ラテンアメリカ世界を生きる』など。