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インドヨーガ人口の急伸 抵抗運動と反権力で接点

東北大大学院教授 山下博司

2014年8月27日付 中外日報(世界宗教地勢)

インド

インド総選挙は最大野党・インド人民党の圧倒的な勝利で、5月26日にはナレンドラ・モディ氏が第18代首相に就任した。雇用の創出に加えてクリーンな政治という公約が国民の支持を得たとみられる。これまでインドでは汚職疑惑が相次ぎ、2008年には携帯電話の周波数帯の新規割り当てをめぐって過去最大規模の汚職疑惑が明らかになった。

既存権力に対する国民の反発は政治だけでなく、宗教にも浸透している。近年、西欧の流行を逆輸入する形で人気を集めているヨーガの根底にも従来の権威への抵抗があると思われる。

現代インドで社会的影響力をもつ代表的なヨーギンにラームデーヴ(1965~)がいる。彼を一躍有名にしたのが、毎朝のテレビ番組である。03年に始まったこの番組を通じて彼のヨーガが中間層や富裕層に浸透。番組のおかげでインドのヨーガ人口が急伸したという。いまや番組はインド移民の多い欧米諸国でも視聴可能である。映画スターにヨーガを教えたりするうち、彼の人気は不動のものとなった。

06年、ラームデーヴはヒンドゥー教の聖地ハリドワールに一大拠点を築いた。ヨーガとアーユルヴェーダ研究の世界最大級の施設で、大学、病院、伝統医学の専門薬局も併設されている。

ニューデリーやムンバイの広大な公園は、彼のヨーガキャンプに参加する5千~1万人であふれる。現代ヨーガを研究する人類学者・竹村嘉晃氏は、インドではストレスがこうじ生活習慣病も蔓延しており、癒やしをヨーガに求める流れが背景にあると分析する。ラームデーヴは、エイズやがんもヨーガにより改善すること、性教育をヨーガ教育で置換すべきことを主張する。

講話の中で、ファストフードや清涼飲料の弊害を説き、農薬や化学肥料の使用を問題視する。人体への害毒に加え、大資本や外資系企業を利するからである。こうした悪弊の除去でインド農村は再生し、農民の経済状況も改善するという。

不正にも矛先が向けられ、社会悪を正す運動に積極的に参画している。とりわけ11年、アンナー・ハザーレーが始めた汚職撲滅キャンペーンへの参与は記憶に新しい。ラームデーヴはハザーレーの運動に賛同し、後者が無期限ハンストを決行中の天文台「ジャンタル・マンタル」(ニューデリー)に現れ、登壇して会場に集結した数千人から喝采を浴び、メディアでも大きく取り上げられた。彼のカリスマ性を改めて思い知らされたものである。実は、彼の聖者性を疑わせる不祥事も勃発するのだが、詳細は井田克征著『世界を動かす聖者たち』に譲りたい。

ヨーガは既存の権力構造や既成秩序、形式主義や儀礼主義に背を向け、もっぱら克己と禁欲によって自らを鍛錬し向上させていく孤独な営みである。反権威主義的で宗派のしがらみを脱した「ヨーガ」が、抵抗運動と接点を見いだすことは必然でもある。

ヨーガは絶食、苦行、自制、自立、無為などの観念とも不離に結びつく。近現代インドの政治闘争に頻出する断食、ゼネスト、非暴力、不服従、非協力などの抵抗手法に、ヨーガやそれと密接に連合する諸観念が反映していることは否めない。

ラームデーヴの社会的影響力は、個人の資質もさることながら、ヨーガ自体が帯びる「反権力」のメッセージ性に由来するところも大きいのである。

やました・ひろし氏=専門は宗教学、インド哲学・仏教学。アジア地域を中心に思想研究などを行っている。著書は『ヨーガの思想』など。