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イギリス「独立ノー」住民選択 民族の誇り支える国教会

筑波大教授 山中弘

2014年10月8日付 中外日報(世界宗教地勢)

イギリス

9月18日、イギリスでスコットランド独立の是非を問う住民投票が行われた。独立問題の急浮上は、スコットランドがイギリスの一地域のように思いがちな日本人には、やや意外な印象を持たれたかもしれない。住民投票の結果は、投票率80%超、賛成約162万票(約45%)、反対約200万票(約55%)で、スコットランドは辛くもイギリスに留まることに決まった。

なぜ、スコットランドの人々はこれほどまでにイギリスからの独立にこだわるのだろうか。北海油田の利権などさまざまな理由が指摘されるが、その根底には、スコットランドがもともとイングランドと対等な独立した王国だったという傷ついた民族的誇りがあるように感じられる。

現在のイギリスは、歴史的にはイングランドによって言語も文化も異なるケルト系のスコットランド、ウェールズ、アイルランドが征服、併合された結果としてできた連合王国なのである。そして、宗教史的には、イングランド支配に屈したこれらの地域の民族的アイデンティティーの持続には、イングランドとは異なる宗教的アイデンティティーも大きな役割を果たしたと考えられる。

イギリスには、エリザベス女王を首長とするイングランド教会(英国国教会)があることは比較的よく知られているが、スコットランドにも「スコットランド教会」(キルク)という国教会があるという事実はあまり知られていない。もちろん、国教会と言っても、イングランド教会のように法律的地位を持っているわけではなく、あくまでもスコットランド「国民」の教会という意味で国教会が存在している。

この教会にはイングランド教会と同様に長い歴史がある。イングランド教会のカトリックからの分離成立が国王の離婚問題という世俗的な契機が大きかったのに対して、スコットランド教会はJ・ノックスという神学者をリーダーとして長老派主導の下で誕生し、神学的にもイングランド教会とは異なっている。したがって、スコットランドの人々の多くはイングランド教会ではなく、スコットランド教会に属しており、この相違が彼らの民族的アイデンティティーの維持を下支えしてきたとみることができるだろう。

宗教の大きな役割は、実はウェールズ、アイルランドにも当てはまる。ウェールズは、イングランド教会と対立してきた非国教徒派の強い地域であり、イングランド教会は既に19世紀にこの地域で国教会としての地位を失うことになった。一方、北アイルランドには多くのカトリック信徒たちが住んでいる。これは、カトリック最大の拠点であったアイルランド島をイングランドが南北に分断したことに由来する。そして、歴史のアイロニーは、イギリスからの独立を求めて闘ったカトリック系住民を弾圧した人々こそ、アイルランドの北部アルスター地方にスコットランドから植民した長老派の末裔たちなのである。

こうした歴史を振り返ってみると、スコットランドの独立問題は突然浮上してきたわけではなく、イングランドのいわば国内植民地として抑圧されてきたスコットランドの昔年の不信感と怨念が噴出したわけであり、スコットランド教会は、彼らの民族的アイデンティティーを束ねる上で重要な役割を演じたとみることができるだろう。

やまなか・ひろし氏=専門は宗教社会学、近代イギリス宗教史など。現在は、聖地、巡礼に焦点を当てた「現代宗教論」に関心を持っている。