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チベットダライ・ラマ14世の後継者 だれが決めるのか

現代中国宗教研究会代表 清水勝彦

2014年11月5日付 中外日報(世界宗教地勢)

チベット

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は来年80歳になる。後継者選びが現実味を増してきた。今年9月初め、ドイツ紙が「14世が『約5世紀続くダライ・ラマは私で最後』と語った」と報道して波紋を広げたが、その後の朝日新聞の取材で誤報と判明した。

こうした混乱が生じるのは、チベット仏教の伝統が部外者に分かりにくいことが一因だろう。

チベット仏教の後継者は転生相続制度で決められる。高僧の死後、その「生まれ変わり」の幼児を探し出し、没した高僧の跡を継がせる制度だ。転生を繰り返す高僧をトゥルク(化身)と呼ぶ。

歴代ダライ・ラマは、チベットの地を守護する観音菩薩がこの世に姿を現した化身だと信じられている。17世紀に5世がチベットを統一すると、宗教と政治の両面の最高指導者となった。

現14世は幼少時に、13世の「生まれ変わり」と認定された。高僧の率いる転生者捜索隊が、伝統に則って聖なる湖に現れた文字や風景などを手がかりに転生先を絞り込み、最後は13世の遺品と偽物を混ぜて並べて、本物を選ばせるテストが決め手となった。

無神論の中国共産党政府は輪廻転生など信じないのに、この仏教世界に介入し、転生手続きを立法化してしまった。

中国の宗教法規「宗教事務条例」(2005年施行)は、転生の認定を「仏教団体の指導の下に、宗教上の定められた方法に従い……人民政府の承認を求める」と定め、承認権を政府に与えた。さらに細則で、「いかなる団体、個人も(転生者の)捜索と認定を勝手に行ってはならない」とし、ダライ・ラマ側の介入を封じた。

中国政府にとって、インド亡命後も中国チベット圏に住む628万のチベット民族に大きな影響力を持つ14世は、危険な「袈裟を着た狼」である。

それだけに中国は「14世が死ねばチベット問題は解決する」と見なし、「その死」を待つ。そして15世探しの主導権を握り、「共産党を賛美するダライ・ラマ」に仕立て上げる作戦だ。

14世はこの危機に臨んで2011年、歴史的な決断を下した。

まず、400年近い伝統を持つ政教一致のダライ・ラマ制度を廃止し、政治指導者の地位を亡命社会の選挙で選ばれたセンゲ首相に移譲した。転生相続制度には、次の転生者が成人になるまでの約20年間、「権力の空白」が生じるという致命的な欠陥があるからだ。

次いで14世は、「次期ダライ・ラマの化身認定に関する指針」を発表した。①90歳の頃、転生の必要があるかを各界に検討させる、②必要が認められ、15世を認定する時期が来たら、その任務はダライ・ラマのラプラン(事務所)が担う、③化身を認定する具体的な方法を指示する文書を残す、という内容だ。

14世は、中国の立法化を「たちの悪いお笑い種」と非難し、中国の「悪巧み」を阻止するために、「転生する当事者の権限」として具体的な段取りを示した。

14世は、「共産党に取り込まれる中国領内には生まれ変わらない」と言う。中国も独自に認定し、「2人のダライ・ラマ」の出現は避けられない。

その時、チベットはどうなるのか。

2008年、チベット民族は中国に対する積年の怒りと恨みを爆発させて一斉蜂起したが、武力で鎮圧された。僧侶らはいま、「ダライ・ラマの早期帰還を」「チベットに自由を」と叫んで焼身「抗議」を続けている。チベットに目が離せない。

しみず・かつひこ氏=元朝日新聞記者。アエラ副編集長、上海、台北支局長などを歴任。著書には『宗教が分かれば中国が分かる』など。