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香港(中国)キリスト教各界のかかわり 「雨傘運動」に見え隠れ

香港中文大・崇基学院神学院客員研究員 松谷曄介

2015年1月21日付 中外日報(世界宗教地勢)

香港(中国)

世界中が注視していた香港の「雨傘運動」が12月中旬についに収束した。日本の一般メディアではほとんど報じられなかったが、同運動には香港のキリスト教各界も少なからず関わっていた。

雨傘運動の契機の一つとなった民主派団体「佔領中環(中環=香港の金融街)」の発起人3人のうち、戴耀廷(香港大法学部副教授)はプロテスタントのキリスト者であり、もう一人の朱耀明は民主化運動に長く携わってきたプロテスタントの牧師(バプテスト派)だ。また『タイム』誌の表紙を飾り世界中で一躍有名になった黄之鋒(学生団体「学民思潮」のリーダー)がクリスチャンホームの背景を持っていることや、ローマ・カトリック教会香港教区の元司教だった陳日君枢機卿が民主化運動の強力な支持者であることは香港のキリスト教界ではよく知られている。

9月28日、警察が学生、市民に対して催涙弾を発射した際には、プロテスタントとカトリックの主要な組織が相次いで政府・警察に対する非難声明を出した。2カ月以上続いたデモの最中には、現場近くの教会が教会堂を避難所・休憩所として市民に開放したほか、有志のキリスト教諸団体・個人が現場で礼拝を行ったり、霊的・精神的なカウンセリングをするコーナーを設けたり、あるいは教会および神学校で講演会や祈祷会を実施したりもしていた。

雨傘運動を積極的に支持するキリスト者たちは、それぞれにキリスト教的な根拠を持って参加していた。例えば戴耀廷は1年以上前から=領中環を提唱する中で、アメリカの市民権運動の指導者キング牧師にしばしば言及するなどし、占拠運動を「市民的不服従(civil disobedience、中国語では『公民抗命』)」と位置づけていた。

また彼は不正義・不公平な法律や制度への抗議運動が聖書の教える「正義を行うこと」に合致するだけでなく、「隣人愛」や「福音伝道」の一つの方法であるとも表明していた。

キリスト者は香港の総人口700万人中15%前後を占めていると言われる。だが全ての教会・信者が雨傘運動を支持していたわけではない。同運動に反対する人々は「政治的権威は神から与えられたものだから政府への過度の抗議活動は慎むべきだ」「キリスト者は法を重んじるべきであり道路占拠という違法行為などすべきでない」とやはりそれぞれに信仰的理由をもって反対していた。同運動への賛否をめぐって教会内で分裂が起こったという事例も耳にする。香港社会の亀裂はそのままキリスト教界内部にも亀裂をもたらしているのだ。

香港の選挙制度をめぐる政治改革の行方、そしてひいては一国二制度の将来が注目されているが、キリスト教界にとってそれは信教・集会・結社・言論の自由に関係する問題とも言える。中国大陸ではキリスト教の勢力拡大に対する政府の圧力が強まってきているが(浙江省温州市の十字架撤去・教会取り壊し事件など)、今回の雨傘運動の中枢に複数のキリスト者が関わっていたことで、北京政府は香港のキリスト教に対する警戒心をも強めたかもしれない。香港のキリスト教の今後の情勢からも目が離せない。

まつたに・ようすけ氏=専門は中国キリスト教史、日中キリスト教関係史。訳書に王艾明『王道―21世紀中国の教会と市民社会のための神学』。