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メキシコ顕在化する骸骨崇拝 カトリック教会は異端視

創価大准教授 井上大介

2015年2月18日付 中外日報(世界宗教地勢)

メキシコ

メキシコは世界有数のカトリック大国であり、国勢調査(2010年)では、人口の約89%がカトリック教徒であると自己申告している。しかし毎週末のミサに参加する信者から冠婚葬祭に際してのみ教会を訪れる信者に至るまで、その実態はきわめて多様である。

また近年は、カトリック教徒であると自称しながらも、カトリック教会から認可されていない聖人を信奉するといった民衆的動向も健在化しつつある。その代表的な事例が現在、首都メキシコ市のクアウテモク区テピート地区を中心に拡大しつつあるサンタ・ムエルテ(死の聖人の意)信仰である。

サンタ・ムエルテ信仰は、骸骨像を本尊として崇める宗教習俗であり、01年以降、街中に設置された祭壇への参拝儀礼を中心にその影響力を拡大している。同信仰には特筆すべき教義が存在するわけではなく、聖人像崇拝を中心としたロザリオ儀礼の実践など、メキシコ・カトリシズムの諸要素を流用するといったものである。

しかしカトリック教会からは、「神の命令により人々の死をつかさどるとされる死神」を聖人像としているという点で悪魔崇拝やサタニズム的信仰として異端視されている。

一方、サンタ・ムエルテ信仰に共感を覚える信者たちの多くは社会的従属階級であり、自らをカトリック教徒であると位置づけながらも、カトリックの教会や聖職者からは距離をとっている。信者たちがサンタ・ムエルテを信奉する理由には、現在のカトリック教会が権威主義化しており、犯罪者やゲイ、レズビアンなど社会的マイノリティーを蔑視し、救いの手を差し伸べないのに対し、サンタ・ムエルテはあらゆる人々のあらゆる願いを成就してくれるといった主張が顕著である。

ちなみに現在テピート地区で月1回催されているロザリオ儀礼では、自身の骸骨像を持参した5千人ほどの信者が集まり、「投獄されている友への祈り」「性的マイノリティーへの祈り」「麻薬患者への祈り」などが捧げられ、マイノリティーへの社会的抑圧に対する宗教的救済が標榜されている。

メキシコは新自由主義経済を標榜する中で、特に1990年代以降は、北米自由貿易協定という地域統合への加入を契機に、法王ヨハネ・パウロ2世の訪墨、憲法改正(カトリック優遇政策として考えられている)、バチカンとの国交回復などが実現、さらにはカトリック教会と強い親和性をもつ国民行動党の誕生など、国内における政治と既存のマジョリティー宗教との接近が顕在化した。

このような動きはグローバリゼーションにおけるナショナリズム的反応として興味深い傾向を示しているが、インターネット等や海外のマスメディア関係者によって影響が拡大しつつあるサンタ・ムエルテ信仰の社会的顕在化も、同じくグローバリゼーションにおけるナショナリズムへの抵抗としてのローカル文化の活性化として理解できるのである。

死を信仰対象とする宗教習俗は、近代化によって死を管理、隔離してきた社会的ヘゲモニーに対する民衆文化的動向として考えられるが、既存の社会秩序を揺り動かす同現象に対し、現在までのところ社会的正当性は付与されていない。今後、サンタ・ムエルテ信仰がメキシコの政治、経済、文化との関わりで、どのように変容していくのか注目していきたい。

いのうえ・だいすけ氏=専門は中米における宗教運動。メキシコの民衆文化とナショナリズムやグローバリゼーションとの関係を研究している。