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ロシア3共和国は仏教圏 モスクワ初の寺院建立

清泉女子大専任講師 井上まどか

2015年4月15日付 中外日報(世界宗教地勢)

ロシア

近年、モスクワ初の仏教寺院の建立が発表され、大きな話題となった。場所はモスクワ市北部のオトラドノエ地区。ここにはロシア正教会、イスラム、ユダヤ教の施設がある。ロシアでは右の3宗教に加え仏教が伝統宗教とされており、寺院建立により、諸宗教の平和的共存を象徴する空間になるとみられる。

チベット仏教ゲルク派がロシア仏教の中心宗派だが、実は他にも20以上の宗派が存在する。ロシア全体で仏教徒は1%未満だが、モスクワ人口(約1150万人)の10%が仏教徒とも言われている。150を超える民族からなる多民族国家ロシアの民族宗教とされる仏教であるが、特にソ連崩壊後、各宗派が国外から流入し民族を超えて仏教が広く信奉されるようになったためであろう。

現ロシア連邦の地方行政体85のうち、ブリヤート共和国、トゥバ共和国、カルムィク共和国などで仏教は伝統的に信仰されてきた。各共和国に住むブリヤート人、トゥバ人、カルムィク人の民族宗教として仏教は広まっていたのである。17世紀に中国北西部辺りからカスピ海西に移動したモンゴル人が今のカルムィク人である。次に東モンゴルのブリヤート人がロシアに併合され第二の仏教圏となり、20世紀にトゥバがロシアに併合されて第三の仏教圏となる。

仏教は、1741年の女帝エリザベータの勅令によってロシアの公認宗教のひとつとされた。さらに46年に女帝エカテリーナ2世がブリヤート仏教徒に最高指導者(パンディト・ハンボーラマ)の選出を許可し、公認宗教としての地位は確立された。それまでロシア領内のブリヤート人は国外の宗教指導者に従っており、ブリヤート人のロシア帝国への忠誠心を高めることが狙いとみられる。

現ロシア仏教界の中心的存在は、ブリヤート共和国のパンディト・ハンボーラマ24世だが、寺院が一番多いのはカルムィク共和国である。ブリヤート共和国のブリヤート人は約30%にすぎないのに対して、カルムィク共和国のカルムィク人は過半数を占めるという人口構成も背景にある。また同共和国のイリュムジーノフ前大統領は首都エリスタ初の仏教寺院の他、30もの寺院を建立するなど仏教の篤信家として知られる。なお、トゥバの仏教はシャーマニズム的実践との習合的な性格が特徴とされている。

ブリヤート共和国の寺院イヴォルギンスキー・ダッツァンには、パンディト・ハンボーラマ12世(イチゲロフ、1927年没)の不朽体が安置され、仏教徒らの巡礼地となっている。生前と同様、蓮華座を組んだ遺体は1973年の調査で、腐敗しておらず生前とほぼ同様の状態であることが確認された。

ロシア仏教界は、ソ連崩壊後グローバル化が進み、もはや民族宗教の範疇を超えつつある。たとえばモスクワでも、チベット仏教各派に加え、ティク・ナット・ハンの流れをくむベトナム系禅宗、欧米に展開する韓国系禅宗が活動している。さらに、チベット仏教宗派であっても、指導者が西欧経由あるいは西欧出身者ということもある。たとえば、カルマ・カギュ派ロシア仏教協会(1993年設立)や国際ゾクチェン共同体「クンサンガル」などである。

民族宗教という視点だけでなく、仏教のグローバル化という視点からロシア仏教界を展望することが、今後ますます重要になってくるだろう。

いのうえ・まどか氏=専門は近現代ロシア宗教史、ロシアの政教関係。編著に『ロシア文化の方舟』など。