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パキスタン神学校で若者育成 越境するテロ集団連動

高崎経済大教授 小牧幸代

2015年4月29日付 中外日報(世界宗教地勢)

パキスタン

昨年12月、250人以上の生徒と教員が死傷した「ペシャーワル学校襲撃事件」の実行犯は、スンナ派の「パキスタン・ターリバーン運動」(TTP)に属していたとされる。TTPの報道担当は、北ワジリスタンすなわちTTPの本拠地周辺で、事件の半年前に行われた対テロの軍事作戦への報復として、軍の管理運営下にある同校を襲撃したのだと説明した。

TTPは、ノーベル平和賞受賞者マララ・ユースフザイさん銃撃事件でも知られる。さらに、政府関連施設や政党関係者、シーア派宗教施設を対象とした攻撃でも、しばしば犯行声明を出してきた。これほど多様で広範な破壊的活動が可能となるのは、TTPが結束力のある堅固な集団だからではない。むしろ、方便としてのイスラームを通じて緩やかに結びついた、越境する人びとの集まりだからである。

アフガニスタンのターリバーン運動を支持する勢力の連合体として、TTPは2007年末、パキスタン北西部で発足した。ターリバーンとは一般に学生を意味するが、この文脈ではイスラーム神学生を指す。すなわち、ペシャーワルのデーオバンド派系列の神学校ハッカーニーヤ学院で学んだ若者たちである。

パキスタンのイスラーム神学校は、ウラマー(伝統的なイスラーム諸学を修めた学者)の系統と非ウラマーの系統に大別でき、ウラマー系統はスンナ派とシーア派に二分、スンナ派の神学校はさらにデーオバンド派、バレーリー派、アフレ・ハディース派の系列に分類できる。このうち、ターリバーンと縁が深いのはデーオバンド派だが、同派が若者を魅了する理由はどこにあるのか。

デーオバンド派は、発祥地であり本拠地のデーオバンド市(北インド、ウッタル・プラデーシュ州)に位置するデーオバンド学院を頂点として、南アジア各地に神学校ネットワークを張り巡らせ、ほぼ全寮制かつ無料でイスラーム伝統諸学を教授している。その一方で、「タブリーギー・ジャマーアト(布教団体)」を通じて、南アジア内外の「田舎ムスリム」や「改宗ムスリム」の「再イスラーム化」に、通常3日から40日の合宿プログラムを組み、熱心に取り組んでいる。神学校で学んだ学生が布教団体で実践できるシステムだけでなく、布教団体を通じて「本物のイスラーム」に触れることで、一般ムスリムが神学校にアクセスしやすい仕組みも備えているのである。

パキスタンにはスンナ派ウラマー系統だけでなく、シーア派ウラマーの系統や、非ウラマー系統の「ジャマーアテ・イスラーミー(イスラーム団体)」系列の神学校もあり、いずれも有力なイスラーム政党と直接的な関係がある。神学校は、各政党および関連団体の活動の末端組織となっており、宗教的信条と政治的動員が連動しやすい地盤が成立している。

そもそも、パキスタンにおいてイスラームの位置づけは状況主義的である。建国当初は国民統合のシンボル、軍政時代は世俗主義を掲げる民政への対抗文化、さらに9・11以降は外交・内政問題の切り札といった具合に、時々刻々と変化する政治の道具として利用されてきた。悲劇的な事件の背後に、政治家・宗教家・軍人・諸外国の戦略や思惑の結果として越境する人びとが集い、ともに学ぶ神学校という存在がある。彼らがそれぞれの思いを胸に誰かを攻撃するとき、方便としてのイスラームが語られ、TTPが声明を出すのである。

こまき・さちよ氏=専門は文化人類学(南アジアのイスラーム)。共著書には『現代パキスタン分析:民族・国民・国家』など。