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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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ネパール信仰心強めた地震 カースト超え助け合い

立正大非常勤講師 宮崎智絵

2015年6月3日付 中外日報(世界宗教地勢)

ネパール

4月25日、ネパール・カトマンズの北西約80キロを震源とするM(マグニチュード)7・8の地震が発生し、死者は8500人を超え、M7・3の余震が起こるなど、さらなる被害が懸念される。

ネパールは2008年に王制を廃止し、連邦民主共和制への移行期にある。憲法制定の期限だった1月22日を過ぎても憲法を制定することはできず、デモやストライキなどで国内は混乱していた。ようやく国内も穏やかになってきたところで今回の地震が起こったのである。

今回の地震では、ボダナートとスワヤンブナートの仏塔は無事だったものの周囲の建物は崩壊し、ダルバール広場の世界遺産となっているヒンドゥー教寺院や歴史的建造物も崩壊した。ネパールの観光資源であるとともに、信仰の場でもある建物が失われたのである。

地震の1カ月前にダルバール広場を訪れた時には、海外からの観光客に交じって多くのネパール人が、カーラ・バイラブ神像をはじめとする神像や祠、寺院に灯明やろうそく、花を供え、熱心に祈りを捧げていた。急速に近代化されてきているとはいえ、まだまだ信仰心は強い。

今回の地震でネパール人の宗教意識はどのように変わるであろうか。東日本大震災の際、仏教寺院が避難所になったり、僧侶が被災者の心の傷を癒やし、人々と宗教の絆が強まった。震災という理不尽にも思える状況の中で、多くの人々が宗教によって救われたのである。

ネパールは80%以上がヒンドゥー教、9%が仏教、他にもイスラム教、精霊信仰などの宗教が共存しつつ混じり合っているため一概には言えないが、今回のネパールの地震でも同じことが言えるのではないだろうか。多くの人々が神に祈り、かえって宗教心が強くなると考えられる。寺院という形がなくても信仰心が失われることはない。

これまでにも1934年にM8・1のビハール・ネパール地震、88年のM6・6のウダヤープル地震で大勢の死傷者が出て、多くの建物が崩れたが、ネパール人の信仰心は消えることはなく、寺院を再建させてきた。

また、ネパールは100以上の民族が存在する多民族国家であり、宗教的にも多宗教国家であり、民族や宗教ごとにカーストが異なる多重構造の社会である。カースト制はカーストが異なる人との接触、供食などが制限されることから被災者の救援への影響が懸念される。地震前にも海外から多くのボランティア活動が行われていたが、カースト制のせいで思ったように活動できないなどの声が聞かれた。

だが地域、世代によってはまだカースト意識は残っているとはいえ、近代化に伴いカーストとは関係のない職業が増加し、マオイスト(ネパール共産党統一毛沢東主義派)が政権を握ったことによりカーストは弱くなりつつある。今回の地震でカトマンズではテント、食料や飲料水などが不足する中、カーストに関係なく同じテントで協力して食事を作って食べており、民族、信仰も超えて互いに協力する姿が見られた。

地震前には高カーストの中には低カーストの者を家に入れることを拒否する者もいたが、地震後は救援物資が空港に滞るなど政府がうまく機能していない中、高カーストも低カーストも同じ被災者として近所で助け合い、道路や広場、家の再建をお互いに協力して行っている。

みやざき・ちえ氏=専門は南アジアの宗教と社会。論文は「結婚戦略からみるカースト制」など。