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アメリカ大統領選トランプ現象 反知性主義の伝統

国際基督教大学務副学長 森本あんり

2016年4月27日付 中外日報(世界宗教地勢)

大統領選挙候補者選びでトランプ氏は22の州などで勝利をおさめた(19日現在)
大統領選挙候補者選びでトランプ氏は22の州などで勝利をおさめた(19日現在)

アメリカ大統領選挙の行方が連日のように報道をにぎわせている。民主・共和両党とも非主流派の勢いが強くて目を離せないが、人びとの関心は何といっても共和党のトランプ候補の指名獲得いかんだろう。ニューヨーク州の予備選挙が終了した現時点でも、首位を保ったままである。

政治の素人で、憎悪や偏見に満ちた過激な発言を繰り返すトランプ氏が、なぜここまで支持されるのか。いったいアメリカはどうなってしまったのか。仮に彼が大統領になったら、日米関係や世界秩序に何が起こるのか。そんな不安を募らせる人びとを尻目に、トランプ氏は専門家たちも首をひねるほどの支持を受けてきた。

とはいえ、歴史を振り返ると、このような現象はあながち例外とも言い切れないことがわかる。もともとアメリカには反知性主義的な風潮が強く、目から鼻へ抜けるような知的エリートは好まれない。今回のトランプ氏やサンダース氏が掲げる「反ワシントン」「反エスタブリッシュメント」といったスローガンも、19世紀以来何度か現れては既存の体制に揺さぶりをかけ、その都度新しい制度の誕生を促してきた。このような傾向を「反知性主義」と呼ぶが、今回のトランプ現象もこの文脈から眺めるとわかりやすい。

「反知性主義」は、昨今の日本でも使われるようになった言葉だが、本来は知性そのものへの反発というより、知性と権力との固定的な結びつきに対する反発である。その出発点には、独立前から盛んであったキリスト教のリバイバリズム(信仰復興運動)と、その担い手となった学問経験の薄い素人伝道者たちの活躍がある。

彼らは、みずからの信仰的確信だけを頼りに、当時の体制を支配していた大学出のエリート牧師たちにひるむことなく挑戦していった。それは、「学者・パリサイ人」の権威を批判した新約聖書のイエス自身にさかのぼる、宗教的な平等観に裏打ちされた改革運動なのである(拙著参照)。

だが、トランプ氏にそのような宗教的確信があるようにも思われない。彼は、離婚や妊娠中絶については保守的とは言えないし、聖書を読んだり神に祈ったりする習慣もないという、敬虔とはほど遠い人物である。にもかかわらず、福音派のキリスト教徒までもが彼に熱い視線を送っている。これも、選挙ウォッチャーたちを悩ませている謎の一つである。

もちろん真面目なキリスト教徒たちが彼の言動を是認しているわけではない。だが、何といっても彼は成功者である。そして、ここがアメリカ的なキリスト教に特徴的なのだが、「この世の成功は神の是認と祝福の証」と考えられているのである。「神は正しい者には祝福を与え、悪い者には罰を与える」「ところで、彼は成功している」「だから神の祝福を受けているはずだ」――これがトランプ氏と彼の支持者に共通する論理である。

アメリカの政治は、日本の醒めた政治風土からは考えられないほど熱い。党大会などでスタジアムに集まった大群衆は、お祭りのような興奮状態である。実はあれも、キリスト教の伝道集会を知る者にはよく理解できる。どちらも、人びとの心をつかもうとする点では同じ努力の産物だからである。

それは、政治を勉強するだけでは理解することのできない、アメリカ社会の基本構造に組み込まれている神学的なシステムなのである。大統領選挙の行方がどうなるにしても、このようなアメリカ社会の構造を知っておくのは有益だろう。

もりもと・あんり氏=専門は神学宗教学、アメリカ研究。著書は『反知性主義』(新潮選書)、『アメリカ的理念の身体』(創文社)など。