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タイラーマ9世国王崩御とタイ仏教 真理を学ぶ姿勢一貫

翻訳家 浦崎雅代

2016年12月7日付 中外日報(世界宗教地勢)

ラーマ9世国王が描かれた看板の前で手を合わせる子どもたち
ラーマ9世国王が描かれた看板の前で手を合わせる子どもたち

2016(仏暦2559)年10月13日、ラーマ9世(プミポン アドゥンヤデート)国王が88歳で崩御された。70年という長期にわたる在位中、国民から絶大な信頼と敬愛の念を寄せられていたラーマ9世国王。タイ国民の多くが喪服に身を包み、悲しみに暮れる姿をテレビ等でご覧になった方も多いだろう。近年、高齢に加え病による入退院を繰り返していたことから、国民の間では病気平癒のための祈願がしばしば行われていた。

崩御の翌日、タイ仏教界、僧伽の大長老会議は、崩御に対し哀悼の意を文書で表した。同時に全国の寺院及び海外のタイ寺院に対して、追悼のあり方についても具体的に記述している。①寺院内に国王追悼のための祭壇を設けること②崩御後1カ月間、アビダルマを読経すること③崩御後7日、50日、100日に追悼儀式を行うこと④崩御後7日、50日、100日に当たる日の前後に1週間の瞑想修行集中期間を設けること⑤毎夕の読経後に黙祷または瞑想を行うこと⑥今後1年間、国民に対し追悼儀式、読経、瞑想修行への参加を呼びかけること―の六つである。

タイにおける王権と仏教の関係は強く、仏教は国教ではないが、国王は「仏教徒であり、宗教の至高の擁護者である」と憲法によって定められている。ラーマ9世国王も即位後、短期間ではあったが出家した。それは伝統を踏襲するにとどまらず、国民からの信頼をさらに増す要因ともなった。国を統治する王のなすべき義務として十王道という10の徳目がある。仏典に描かれているこの徳目は、ラーマ9世国王の姿勢と重ね合わされ広く人口に膾炙した。国王自らも、修行に秀でているとされる僧侶の元を公式・非公式に訪れて親交を深め、その僧侶たちが病になったと聞けば医師を派遣するなど、仏教や僧侶たちを国家繁栄の礎として支えてきたのである。

国王の葬儀(火葬)は来年行われる予定であり、この1年をかけて周到に準備が進められていく。王族の儀式に関してはバラモン教の色彩も色濃く残るとされ、さらに国王であれば特別な儀式も行われる。

では、僧侶は実際にどのような話を人々に説いているのだろうか。筆者は東北地方の寺の住職であるパイサーン師の説法を邦訳する仕事をしている関係で、その時期の説法を聞くことができた。崩御の翌日「今国民の多くが国王を亡くすという初めての体験をし、まるで孤児のような気持ちであることでしょう」と語りかけ、国王の徳を思い起こし修行に励むように語った。だがその10日後、葬儀の際でよく唱えられるアビダルマの意義について語り「私たち僧侶の役割として『真実の法を伝える』という役目があります。それは人に執着をしない、無我であるということ。真実の法を認識することによって、愛する人を失った悲しみを癒やすものとなるのです」と語った。死はただ嘆き悲しむものではなく、死を通して真理を学ぶ。国王崩御という国の一大事においてもこの姿勢が強く貫かれていることを改めて確認した説法であった。

国王崩御は同時に新しい時代の幕開けでもある。王権・宗教・国家というタイの三つの柱。変化の激しい時代にあって、どう関係性を新たに構築していくのか、これからも注意深く見守りたい。

うらさき・まさよ氏=タイ在住。元マヒドン大宗教学部講師。フリーランスでタイ仏教に関する翻訳・執筆を行っている。