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教訓は生かされているか 「オウム事件後」の宗教と宗教学(5/6ページ)

2014年4月2日付 中外日報(深層ワイド)

インタビュー宗教学者 大田俊寛氏

「霊性進化論」の枠組みで理解

「宗教学再構築が課題」と語る大田氏「宗教学再構築が課題」と語る大田氏
1974年生まれ。一橋大卒。東京大大学院博士課程修了。博士(文学)。現在、埼玉大非常勤講師。著書に『グノーシス主義の思想―“父”というフィクション』(春秋社)、『オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義』(同)、『現代オカルトの根源―霊性進化論の光と闇』(筑摩書房)がある。

オウム真理教事件を研究したきっかけは

5、6年前、カルト問題や日本の新宗教をテーマにした講義の依頼があり、オウムや新宗教研究の現状を読み直した。しかしこれでは、「オウムとは何だったのか」について結論は出ないと感じた。

日本の宗教学はロマン主義的宗教論にどっぷりと漬かっており、そのメンタリティーは実はオウムと地続き。オウムを反省しようとするならば、堀一郎や柳川啓一といった戦後のパイオニアも疑う形で反省しなければならなかった。

例えば日本で影響が大きいエリアーデは批判されるべき研究者。まさにカスタネダ的でオウム的だ。シャーマニズム論では、いかに世界各地で普遍的に見られ、どんな修行法があるかなど、シンパシーを持って記述している。1960年代に若者が読めば、自分もシャーマンの修行を実践し、トランスの状態を体験してみたいと当然感じたはず。LSDを使ったティモシー・リアリーやラム・ダスといったカウンターカルチャーのネオ・シャーマニズムのグルたちに影響を与えたのだろう。

オウムを生み出した社会的背景と現在の比較

オウム真理教に対しては、「霊性進化論」という枠組みから理解するのが最も適切であると思う。「霊性進化論」とはダーウィンの進化論をスピリチュアルの領域に持ち込んだもので、肉体ではなく魂を進化させるのが本当の進化だとするもの。ブラヴァツキー夫人らが説いた。オウムは神智学関係の本をたくさん読み、ヨーガや密教の修行、エゴを捨てグルへの絶対帰依といった方法により、現在の精神性を脱皮し、「超人類」に進化できるというファンタジーを受容してしまった。

オウムという宗教を一言で言えば、「霊性進化論」という神智学に由来する思想を受容し修行すれば「超人類」に進化できると思い込んでしまった人たち。

新たな人類が出てくる時には、意識の遅れた旧人類が淘汰・粛清されなければならないという終末論・革命論ともつながる。このような思想的コアを理解しなければ、オウムがなぜ70トンものサリンを製造しようとしたのかは分からない。

上祐史浩いわく、麻原は旧人類の粛清と新人類の創出を「種の入れ替え」と表現し、幹部の中でそれは明確に意識されていた。こういった世界観は『風の谷のナウシカ』『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリヲン』といったSFアニメのようなポップカルチャーの世界でもよく見受けられる。

それらが広く受け入れられるのは近代人が魅力を覚える型だからなのではないだろうか。ハンナ・アレントは『全体主義の起源』の中で、都市の高度なシステム化住環境の中で家畜を飼うように飼育されているという感覚が群集の中に生じ、不全感を生むと説いた。それがストレスのはけ口を求め、ナチズムのような全体主義になだれ込む。

アニメの革命論や終末論はあくまでエンターテインメントの一つで、現在の若い世代が真に受けているとは思えない。歴史的に言えば、戦後に共産主義革命の運動に走り、挫折した世代が、70年代から80年代にかけてオカルティズムやスピリチュアリズム、新宗教の世界に流れ込み、しきりに「精神革命」論を唱えた。オウムも共産主義革命の挫折から生まれた一つの果実であったという側面は見逃せない。

しかしこうした分野、霊性革命を訴える人々は世代交代が進まず、今では全体として高齢化している。若い人はリアリスティックに見ている。そして、反体制やカウンターカルチャーの思想よりも、いわゆる「ネット右翼」のように、これまで抑圧されていたナショナリスティックな民族感情や日本古来の伝統といったものに魅力を感じ、そこにはけ口を求めているように見える。注意をすべきだろう。