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技術革新と寺社の対応 文化財修復現場の最前線では(1/5ページ)

2015年4月8日付 中外日報(深層ワイド)

高野山真言宗の春季宗会で、高野山霊宝館から自前の文化財修復センターともいえる「文化財保存修理研究棟(仮称)」の建設が提案された。京都国立博物館に各地の寺社が所有する宝物などを修復する「文化財保存修理所」ができて三十数年。現場では盛んに技術革新が行われ、最新の光学機器を駆使した分析や記録の作成は当たり前になった。一方で信仰をもとに守り伝えてきた寺社にもより深い理解と対応が求められている。(杲恵順)

ピンセットで裏打ち紙を剥がす作業。安全性と着実性が求められる

30代後半の技師はステンレスのピンセットを手に、絵画を装丁する際に糊で裏打ちされた和紙を慎重に剥がしていく。横たわるのは国宝の平安時代の仏画「絹本著色釈迦如来像」。前回の修復から約30年が経過し、劣化した剥離止めで光背などが白濁していた。

京都市中京区にある㈱岡墨光堂は1894年の創業以来、日本画の表装や絵画・書跡の修復に携わってきた。京博の文化財保存修理所内にも工房を持ち、近年では国宝「鳥獣人物戯画」も担当している。

約20畳の工房では職人たちが日々作品と向き合い、新旧様々な技術を駆使している。釈迦如来像の欠損部分には、強度バランスを保つため電子線を照射し人工的に劣化させた絹が使用された。劣化絹は専門の施設で作られる。垂直・水平方向に電子線を照射できる「電子加速器」に新しい絹をセットし、2メガボルトのカーテン状(幅120センチ)の電子線を15回当てる。最初は黄色の蛍光を発する絹布が、約1週間で色合いが落ち着き、薄褐色になっていく。

新しい裏打ち紙は見た目を整えるために植物染料「矢車」で染色し、炭酸カリウムで色素を定着させる。接着時には次回の修復時に剥がしやすいよう、約10年間も涼暗所に保存した小麦澱粉糊が用いられた。

工房では修復の無事を願って法要が営まれることもある。同社の代表取締役で、国宝修理装〓師連盟理事の岡岩太郎さん(44)は「修復のためとはいえ、私たちは御本尊様に水をかけたり、刷毛でたたいたりすることが求められる。技術に表れることこそないが、職人たちは心の中で、深い畏敬の念を持ちながら作業に当たっている」と話す。

高野山霊宝館の静慈圓館長も「高野山の過酷な自然環境に千年以上も耐えてきたものが今の私たちの目の前にある文化財」と信仰面を強調、施設の早期整備を訴えた。

文化財維持には多くの費用がかかる。国宝21件・重文146件(約2万8千点)の他、5万点にも上る彫刻・絵画・工芸品などを収蔵する霊宝館。修理修復は基本的に外注で、例年約2千万円を計上。研究棟の建設はそれらを山内で賄う体制づくりを目指す。