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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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6.震災の記憶どう残す

2016年3月30日付 中外日報(伝えたい忘れない-大震災から5年)

思い出写真を小冊子に

津波で打ち上げられた第18共徳丸には多くの見学者が訪れていたが、その後解体された(2013年3月、宮城県気仙沼市で)
津波で打ち上げられた第18共徳丸には多くの見学者が訪れていたが、その後解体された(2013年3月、宮城県気仙沼市で)

床に固定した座席がガタガタと揺れ、前面から頭上に巨大な津波が轟音とともに押し寄せる。宮城県気仙沼市の唐桑半島ビジターセンターにある津波体験館では、正面から両サイド、天井のスクリーンに生々しい映像が投影され、最大時速700キロに及ぶ津波のメカニズムが解説される。

実は東日本大震災以前からある、明治・昭和の津波災害の教訓を学ぶ防災教育施設で、今回の震災で内容が全面改訂された。11分間の映像は、昔の津波時の写真と証言、今回の被害報告や市民の体験談が続き、「津波は防げない。より高所へ逃げるのが命を救う道」と繰り返し強調される。

他にもこの5年間のドキュメンタリー映像、資料パネルなどが展示され、案内してくれた職員の小松香織さん(27)は「せっかくの過去の教訓が生かされなかったのは悲しいことです。語り伝えることがどんなに重要かを理解してもらえれば」と訴えた。小松さんも幼なじみの女友達を亡くした。

ここから市街地への途中の鹿折地区に港から750メートルもの距離を流された全長60メートル、330トンの大型巻き網漁船「第18共徳丸」をめぐり、津波の威力を物語る「震災遺構」として保存するかどうか、論議が起こった。地区は住宅地が壊滅し多くの死者が出ている。結局、市民アンケートで「見るのがつらい」などの反対意見が多く、2013年秋に解体された。

5年前、市街地中心部の高台にある自坊の曹洞宗青龍寺に多くの避難者を受け入れた工藤霊龍住職(52)は「残せるものは残せば良かった。人は3年もたてば忘れますから、後の人たちが思い起こすために」と語る。工藤住職は町の防災対策に深く関わってきた。

副住職として地元青年会議所の委員長をしていた15年前、宮城県沖地震の確率が高いとのニュースに「備えが必要だ」と痛感。学者らの話を聞く勉強会や住民意向調査など様々な取り組みをした。市の危機管理室が課に昇格するなど成果もあり、一貫して「災害が来たらどうするか、常々考えておくことが必要」と言い続けた。

しかし「今回、『チリ地震津波より大したことはないのでは』と海辺を見に行って犠牲になった方もいるのです」と唇をかむ。市の防災担当だった知人は防災マップの想定を超えた事態に「力不足だった」と涙を流したという。東南海地震などが近い将来予想される中「被害をできるだけ少なく減らすために、我々が先例として体験した事を生かさなくては」と工藤住職。「亡くなった方はもう戻ってこない。前に進むしかない」と悲愴感を見せ、「万人が心を寄せ、手を合わせて集えるような場があればいいのですが……」と話した。

共徳丸があった地区では今、土地造成工事が広域で繰り広げられ、幹線道路は両側をフェンスに挟まれて車で通り抜けるだけになっている。市街地再開発計画がパネル掲示されているが、津波の高さまでの盛り土上に設けられた「鹿折展望台」からは荒涼とした風景ばかりが広がり、鹿折唐桑駅の残骸も姿を消した。陸に上がった巨大な船を見学に各地からやって来る人々が立ち寄ってにぎわったコンビニもなくなり、近くの仮設商店街に客はまばら。工藤住職の話では、仮設の店も年内に徐々になくなっていくという。新たに再建する資金がなく商売を諦める人、客足を求めて転出する人もいる。

震災の記憶も、そして震災前のこの町の記憶、住民のつながりもが失われてゆくようだ。そんな中で人々の故郷への思いを、同市出身の慶応大大学院生小野里海さん(24)が聞き取って本にした。

父親と廃虚を歩いていて「ここ、前は何だっけ」と言い合ったのがきっかけで、町の人40人から思い出の場所の話を聞き、以前の写真を集めた。30ページほどの小冊子には通い慣れた商店や公園の街並み、地域の祭りなどの様子がぎっしり。昔の魚市場や繁華街のモノクロ写真も、津波で流失を免れたものを探し出した。

小野さんは、震災前も後も、これからも、「全てがつながっていて、積み重ねなんです」と言う。津波のつらい記憶にふたをすると、その前の楽しい思い出まで忘れてしまうのが怖い。「人の気持ちは何年たっても節目とは思いません。いつの記憶も私は大切にしたいし、一緒に生きてた人たちを大事に心にしまっておきたい」と小野さん。

生活感あふれる冊子を見た全国の支援者から「何だか自分の故郷を思い出す」と共感が寄せられた。『んだんだ』(そうだそうだ)! それが本のタイトルだ。

(北村敏泰)