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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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14.「寺が心の支え」実感

2016年4月27日付 中外日報(伝えたい忘れない-大震災から5年)

亘理町・観音院

寺に保管されていた遺骨のリストを前に5年の歳月を振り返る本郷正繁・前住職(右)と隆博住職(宮城県亘理町の観音院で)
寺に保管されていた遺骨のリストを前に5年の歳月を振り返る本郷正繁・前住職(右)と隆博住職(宮城県亘理町の観音院で)

「慈愛」と大きく刻んだ真新しい墓には、あの日に亡くなった女性の名があった。享年22歳。墓石の土台と灯籠には白とピンクのコスモスの花があしらわれている。仙台平野を見下ろす高台にある宮城県亘理町の真言宗智山派観音院。墓地の横の祠には震災後、身元不明遺体の衣服が長く保管されていた。

同寺では当時、応急措置として121人もの仮土葬が行われた。数週間後に火葬のめどがつくと、今度は無残な遺体が掘り出された。凄まじい死の苦悩の中で、本郷正繁・前住職(74)と長男の隆博住職(47)は悲嘆に暮れる人々に寄り添い、そして身元が分からない遺骨十数体を寺に預かった。その犠牲者の衣服を、家族を捜しに来る遺族の手掛かりにと洗濯して展示していたのだ。

身元は徐々に判明し、最後は一昨年8月、ジャンパーと下着を保管していた男性の遺骨が隣の山元町の人と分かった。だがさらに遅れた例も。「離断」と警察の検視で分類される部分だけの遺体で、4年近くもたった昨年に2人がDNA鑑定で確認された。1体は、遠く石巻市から処理のために町内へ搬入されたがれきに紛れ込んでいた中年男性の大腿骨。引き取りに来た30代の息子は「一部でもよく帰って来てくれた。諦めなくてよかった」と唇をかんだ。

正繁前住職は焼香を見守ったが、掛ける言葉はなかったという。「長い間苦しみ、捜し続けた遺族の方は皆、ほとんど話もしません」。それほど悲しみが重いことが痛いほど分かる。一人一人に様々な人生の物語があり、それが消滅したのだという思いが押し寄せる。だが、「皆さんが引き取られてほっとしました」と安堵の表情を浮かべ、「それぞれどこかの寺の檀家さんでしょうから」と付け加えた。

「一期一会」「想」。観音院の墓地ではこんな銘の入った新しい墓が目立つ。仮埋葬をし、その縁で葬儀も営んだ遺族が入檀する例が相次いだ。もともとどの寺とも付き合いのなかった人たちで、「よその土地から移転してきた50~60代の方にはよくあります。自分の死が近づくまではお寺のことを考えないのです」と隆博住職。

決して勧めたわけではない。だが、仮土葬の際も遺骨を一時安置していた時期にも、前住職父子が毎朝懇ろに供養を続けているのを見て、「ありがたい」と向こうから依頼してきたという。正繁前住職は「心のつながりが求められているのです」とうなずく。

そんな檀家が十数軒になる。ほとんどが「早く墓を作りたい」と言うが、正繁前住職は「まずは生活再建を」と助言した。今は月命日や彼岸などに足を運び、総会で古い檀家たちとも交流が深まった。皆が集まる場では、前住職はつらい事を思い出すような震災の話題は避ける。誰もが胸の奥に悲しみを抱えている。しかし、「あの土葬など凄まじい体験を共にくぐってきたからこそ寺と檀家がこうして手を携えてやって行けるのです」と語気を強める。

あの日の2週間後に隆博住職の晋山式が予定されていた。周辺で900人近い死者が出、檀家も犠牲になる中で、父子は地域に密着して世話をしてきた。そうして2年後の2013年5月に式を行った隆博住職は「震災があって今日のこの日があります。復興はまだまだで、生活が大変な方が多い。しっかり皆さんのために働きたい」と決意を語る。その拠点として、「お寺が大きな支えなのだ」と二人とも実感している。

東北3県で震災によって全半壊など大きな痛手を受けた被災寺院は、中外日報の各教団への聞き取りによれば少なくとも350カ寺を超える。原発事故で避難指示区域内になったのは45カ寺以上で、遠方への避難で檀家の離散が深刻だ。寺院墓地も各地で多大な被害を受けた。

住職の死亡や被害の大きさによって、復興や再建が進まない寺院も多い。集団移転の対象外となって窮地に立つケース、墓地再建が遅れて離檀が増えるところも。寺は被災していなくても、檀家や地域が困窮し人口も激減して運営が困難だという例も目立つ。それは被災地に限らず、過疎化や少子高齢化で「地域の人々の拠り所」としての寺院が全国的に危機に瀕している。

観音院に並ぶ新しい墓の墓誌には「3月11日」の命日がいくつも見られる。ほとんどが安定性のある横型の墓石。享年86歳と81歳の夫婦に57歳の娘らしい3人の名が並ぶ墓には「偲」の文字。そして46歳男性に贈られた言葉は「ありがとう」だ。

(北村敏泰)