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16.未来を壊す福島原発

2016年5月11日付 中外日報(伝えたい忘れない-大震災から5年)

大聖寺・青田住職

空前の事故を起こして人々に害悪を広げ続ける東京電力福島第1原発。壊れていない防波堤越しに原子炉建屋が見える(福島県双葉町で)
空前の事故を起こして人々に害悪を広げ続ける東京電力福島第1原発。壊れていない防波堤越しに原子炉建屋が見える(福島県双葉町で)

原発事故で避難指示が出た福島県浪江町の住民が来年の指示解除をめどに帰還する話題を出すと、知り合いから「いいよね、戻れて。でもうちはそうはいかない」と言われて傷ついた。内心で「でもあなたは補償をいっぱいもらうじゃない」と言い返し、他人をねたむそんな自分を嫌悪する――。同町から福島市内に避難している大聖寺の青田敦郎住職(55)の耳にそんな話が入る。「誰もが故郷を奪われて心がささくれているのです。はじめは『皆で一緒に頑張ろう』だったのに」。原発事故は被害者である住民をさらに分断するという罪の上塗りを続けている、と住職は憤る。

それだけではない。つい先日も避難生活を苦にした知人(44)が自死した。その前は76歳の檀家の女性。家族で遠方に移転し戻る見込みがなくなったという。浪江では大世帯で暮らしていた。働き者で畑で野菜を一人で作り、漬物にしては近所に裾分けして喜ばれていた。眠れないので薬を飲んでいると聞いた青田住職が電話すると、声は元気そうだが、「実は電話切ったら泣いてんだぁ」と打ち明けていた。

震災関連の自死は岩手、宮城では徐々に減ってきたが、福島では増加に転じ、内閣府などの調べでは昨年だけで20人、累計で80人を超える。さらに同県では避難生活で体調を壊すなどの「震災関連死」が5年で2024人に上り、地震、津波による直接死の1604人を大きく上回る。責任はどこにあるのか。家族が分断され、高齢者は戻りたくても世話を受ける息子世代に反対はできない。

福島市内から検問を通って浪江町に入ると、山間部にある帰還困難区域の津島地区はなおゴーストタウン状態。家々は荒れ放題で、見かけるのは除染作業をするゼネコンのトラックばかりだ。空気は澄んでいるが車の窓を開けると、手元の放射線量計の数値が上昇する。外へ降り、地面に近づけると一気に毎時18マイクロシーベルトまで跳ね上がった。年間換算すれば約157ミリシーベルト。国が帰還の基準とする20ミリをはるかに超え、しかもこの基準さえ、国際放射線防護委員会の参考値と比べて緩過ぎるとして住民が裁判に訴えている。

40分ほど走って国道6号を横切り、大聖寺の檀家も多い海岸部の請戸地区を通過する。5年たっても津波の爪痕が生々しく残ったままの海岸沿いの道を通行許可証に従って南下し、福島第1原発が立地する双葉町に入った。住宅地の跡は一面が荒野で建物の残骸さえまばら。不気味な静けさの中で、前方に厳重なフェンスに囲まれた発電所が姿を現した。

「立入禁止」「撮影禁止」「警察に通報」と自らを守るための看板が仰々しく幾つも並び、敷地内では事故の処理で重機やトラックが動いている。海辺側に回ると、「想定外の事故原因」とされた津波にも壊れてはいない防波堤の向こうに、青い原子炉建屋がはっきり見えた。

国道沿いに戻る。無人の市街地の入り口に道路をまたぐPR看板があり、少し前まで掲げられていた標語の文字の痕跡が読める。「原子力明るい未来のエネルギー」。地元の大沼勇治さん(40)が双葉小6年だった28年前に学校の宿題で考案し、採用された。大人に教えられた「夢のエネルギー」を信じて疑わず、長らく看板が誇りだった。だが、事故で最悪の形で暗転した。近所の人たちも自らの家族も故郷を追われ、「世界一、偽りの標語だった」と悔やむ。

「間違いは自分が訂正する」と、避難先から現場に何度も通っては批判のボードを看板前に掲げて写真を撮り、ネットで発信した。「原子力『破滅』未来のエネルギー」「原子力明るい未来『を奪う』エネルギー」。そして各地で原発反対運動に加わり、町が「復興事業」を理由に看板を撤去したことにも抗議活動を続ける。

「憤りはもっともです」。大沼さんの心情を理解する青田住職は、人々の暮らしや、結果的に命をも奪った原発の事故に、「怒りのアイドリングをしています。毎日」と険しい表情で言い切る。「不動明王のような慈悲の怒り」と以前、話していた。汚染水を垂れ流し続け、いっこうに進展しない事故処理に「仏の顔も三度」とも言った。

そして今、「5年たっても変わらない。むしろ状況はひどくなっています」と住民の考えを代弁する。「皆さんの気持ちに添うのが僧侶」と積極的に発言し続ける。各地に散らばった檀家や知人に出した今年の年賀状にも書いた。「(政府の)粉飾妄言を賜りつつ原発事故は進行中。……核の炎の根絶を願い、涙と激昂を抑え、笑門来福と願っております」

(北村敏泰)