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1、いい加減さ 場の空気をホッとさせる

天台宗千妙寺住職阿純孝

2016.02.12~2015.03.04

  • 1、いい加減さ 場の空気をホッとさせる
  • 3、『往生要集』 死への苦しみに寄り添う
  • 2、老と死 今日一日を大切に生きる
  • 4、「悉皆成仏」 地球環境の見方を変える

歌手の香坂優さんが、東京都港区の草月ホールでリサイタルをした時、歌と歌との合間の閑話がおもしろかった。

アルゼンチンのコルドバ州が主催する音楽祭に日本代表として招かれた時のこと、ブエノスアイレスの空港で入国係官に「何の目的で来たのですか」と尋ねられた。「私は歌手として招かれ、歌を歌いに来ました」と答えたら、「あなたは歌手か。ならば今、歌ってみなさい。ここはアルゼンチンだからタンゴがいい」と言われたという。

(えっ、そんなこと、変な人だ)と思ったが、日本と違う異国のここはアルゼンチン。希望通り「カミニート」を声高らかに歌ったら、周りの人たちも声を合わせて大合唱。係官は喜んで、「わが国にようこそ」と言って握手をして、フリーパスで通してくれたという。

香坂さんは冗談まじりに「いい加減な国ですね」と言って話を締め括った。なんとも言いようのない「いい加減さ」が心地よく心に響いた。

この「いい加減」という言葉は、理に適ったちょうど良い塩梅という意味と、それとは逆に、深く考えもせず無責任な態度を表す意味にも使われる。

香坂さんの言う「いい加減」は、理に適った「良い加減」と真面目さを欠いた「いい加減」との両方を含んでいる。手加減、湯加減、匙加減。加減は、程の良さで決まる。

アルゼンチンに入国する際、歌手かどうかを調べるなら、歌を歌わせるのが一番確かめやすい。つまり、そのように確認した係官のやり方は適切であったと言える。がしかし、場所柄を考えたならば、“いい加減にしろよ”と言いたくもなる。

香坂さんも、係官の言葉に乗せられて歌ったのだから、気が合ったのだろう。おかげで友好的国際親善に役立った。

もし仮に、香坂さんが歌うことを拒絶して「失礼な!!」と言ったなら、どうなっただろうか。係官はそっぽを向き、不愉快な空気が漂ったことだろう。

ジョークとも言えるいい加減さは、人間味があって、ホッとさせられる。