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1、三つの教え スリランカ僧との出会い

臨済宗妙心寺派妙善寺住職 元常任布教師長島宗深

2018.10.12~2018.11.02

  • 1、三つの教え スリランカ僧との出会い
  • 3、水と氷の如く 固い心が真の姿を隠す
  • 2、肝要は誠実さ 声が出ない布教の試練
  • 4、虹いろポスト 亡き人に出す手紙

「お父さん、今日学校にスリランカのお坊さんが来たよ。お坊さんは午後は何も食べないし結婚もしないんだって。樹の下が教室だから雨だと休みなんだって」。まだわが子が中学生だった頃、帰宅するなり興奮気味に話してくれました。

興味を持った私はそのお坊さんに会いたくなり、翌日訪ねると、現れたのはエンジ色の服を着た23歳の小柄な青年でした。12歳で出家し、家族と離れてお寺に入った彼は16歳で村の日曜学校の先生になったそうです。貧しい人や苦しむ人の話を聞いたり、困難な人々の役に立つことが喜びで、人が幸せになることがいちばん好きだと目を輝かせて話してくれました。

私は、彼と向かい合ううちに、彼の口から聴きたいお経のことで頭がいっぱいになりました。南方の仏教に伝わるという『慈経』です。「一切の生きとし生けるものが幸せでありますように」と願い、そのためには「人を欺かず、軽んぜず、怒りを抱かず、他人を苦しませようと望んではならない」と説くお経です。「母が命の限りわが子を護るように、一切の生きとし生けるもの、また全世界の人々に対して、限りない慈しみの心を起こすべし」と説く大好きなお経です。

懇願する私の願いを聞き届け、すっと居住まいを正すと、彼はゆったりと唱え始めました。聴いたことのない言葉、不思議な旋律、心地よい声の響きに引き込まれながら、私は彼がさきほど口にした言葉を心の中で反芻していました。

「仏教は2500年の間にたくさんの教えができました。でも大切なことは、『私の口で悪いこと言わない。私の頭で悪いこと考えない。私の身体で悪いことしない』この三つだけです。大切なのは、人にやさしくすることだけです」

それは私よりもはるかに年若いこの青年僧が、真っ直ぐに私の目を見据えて諭すように伝えてくれた言葉でした。

以来20年近くたちますが、今でもこの時の彼のまなざしを忘れません。そして、仏教の根本と方向性をわかりやすくシンプルに説いた名句であると受け止め、大切にしています。