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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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学生の宗教意識はどう変わったか ― 20年間の全国調査から

國學院大教授 井上順孝氏

2016年6月10日付 中外日報(論)

以前の調査と比較して注目すべきこと

15年の調査では以前の調査結果と比較することを目的とした項目がいくつかある。一つは東日本大震災に関わる問題である。12年の調査は震災の翌年に行われたもので、学生の記憶もまだ新しかったであろう。15年の調査は震災から4年後になる。何か変化があっただろうか。

「このような災害のときに、宗教や宗教家だからこそできる役割があると思いますか」という質問項目が、12年と15年に設けられていた。「必ずある」と答えた人は12年は20・6%であったが、これが15年には10・4%と、ほぼ半減した。「いくらかある」はあまり変わらない。また宗教家への期待を示す割合は、両年とも宗教系大学の学生の方が高い。

ただし、こうした災害が起こったときの宗教家や宗教施設の役割についての質問を内容ごとに見ていくと、避難場所の提供や心のケアなどに〇印を付けた学生は5割前後の割合で大きな変化はない。社会的活動に対しては一定の期待が持続している。

もう一つ、12年の調査結果と比較しようとした事柄がある。それはイスラム教に対する意識の変化である。イスラム教やイスラム教徒(ムスリム)との接点は、まだ乏しい。「日本にイスラム教徒の友人がいる」という人は3・6%であるし、「近所にイスラム教徒が住んでいる」という人は2・0%である。

モスクは日本全国に80カ所ほどあるとはいえ、それと分からないものもある。このことがいくらか関係するかもしれないが、「近所にイスラム寺院(モスク)がある」という人は0・8%にすぎない。

注目すべきはモスクが建つことへの感情の変化である。「モスク(イスラム寺院)が近所にできることになったとするとあなたは不安を感じますか」という質問に対し、「不安は感じない」という選択肢を選んだ学生は、12年は52・7%であったが、今回は36・4%であった。「不安を感じない」という人が16ポイント以上減っているということである。

他方「かなり不安を感じる」を選んだ学生は12年の13・7%から今回は21・8%になり、8ポイントほど増えている。実際には大半の学生が身近にモスクがあるわけでないし、イスラム教徒の知り合いがいるわけでもない。この数値の変化にはIS(イスラミック・ステート)をはじめとする、イスラム教過激派によるテロ事件の報道が影響している可能性が大きい。

あと一つ、靖国問題に関する意識の変化を紹介したい。これは10年前の05年に行った同じ質問の結果との比較になった。「あなたは首相が靖国神社を参拝することをどう思いますか」という質問があったが、肯定的な意見が増えている。「必ず参拝すべきである」が、05年の8・5%から今回は12・6%になった。逆に「参拝してはいけない」は、7・6%から3・2%に減った。他に「個人的な信仰なら参拝してもいい」「参拝しない方がいい」という選択肢もあるが、明らかに首相の参拝に対し肯定的な意見が増え、否定的意見が減っている。

靖国神社という宗教施設とは別に、特定の宗教とかかわりがなく、誰もが追悼できる「国立の新しい追悼施設」を作るべきという案への回答も興味深い。「あったほうがいい」「あってもいい」という肯定的回答が、今回は68・0%で、05年より10ポイント近く増えているのである。

靖国参拝へは少し肯定的になっているが、新しい追悼施設に対しても肯定的になっていることは、若い世代の意識の変化として、きちんと見据えておくべきことと考える。やや愛国的になっているものの、排他的になっているわけではないとも解釈できそうである。