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宗教法人と「マイナンバー」 ― プライバシーは国家の管理に

白鷗大教授 石村耕治氏

2016年9月9日付 中外日報(論)

いしむら・こうじ氏=米・イリノイ大、豪・モナシュ大ロースクール修了。白鷗大法学部教授。同大学院法学研究科長。税法・情報法専攻。著書に『共通番号の危険な使われ方』(共著)、『納税者番号制とは何か』『宗教法人の税務調査対応ハンドブック』『宗教法人法制と税制のあり方』『現代税法入門塾〔第8版〕』『日米の公益法人課税法の研究』他多数。

今年1月から、国民全員に「マイナンバー」(正式には「個人番号」)という生涯不変の背番号を振り、国民をデータ監視する「マイナポータル」(正式には「情報提供ネットワークシステム」)の仕組みが産声を上げた。マイナンバーやマイナポータルは、「税と社会保障の効率化」や「電子政府(e-Gov)の構築」に必須というのが政府のPR。旧民主党や朝日など大新聞が旗振りをし、市民団体などの反対を尻目に翼賛的に導入された。

「マイナンバー」は、和訳すると「私の背番号」。ソフトなネーミングとは裏腹に、実質は「国民背番号」である。「背番号で自分の幅広いプライバシーを国家が束ねる仕組み」に積極的に賛同する国民は少ない。

憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と定めている。このことから、もっと憲法学者からの異論があってよいのではないかとの声もある。だが、批判よりは沈黙を好む、あるいは、より積極的に政府のサポートに回ろうとする群れと化した現状では、正論は期待薄かも知れない。

マイナンバーやマイナポータルは、国民の人権へのインパクトが大きいだけでなく、政府の効率化よりも国民の負担が重くなる血税浪費の公共工事の典型である。

◆宗教法人に負担が重く、じわじわ危なくなるマイナンバー

マイナンバーやマイナポータルの導入で、国民は一生涯、マイナンバーで、自分の幅広い個人情報を国家の管理にゆだねることになった。一方、宗教法人も、法人番号で幅広い情報が国家管理されることになった。

とりわけ宗教法人は、国家に協力する形で、その職員や役員、宗教教師、その扶養家族、さらにはその取引相手から、マイナンバーを聴き取ったうえで、国や地方の行政機関など向けの税や社会保険関係の各種書類や届出書に記載して提出しなければならなくなった。

国内の400万を超える民間企業(うち中小企業は9割超)は、膨大な数のマイナンバーの提供を求め、マイナンバー付き情報(特定個人情報)を長期間保存するように強いられる。このことから、政府は、宗教法人を含む民間企業に対しマイナンバーの安全管理を徹底するようにはっぱをかけている。

ところが、この段階にいたっても、どんな安全管理対応をしたらよいのかわからない、といった法人の経営者や自営業者が大半だ。これは、カネをかけて対応をしても、生業へのメリットがまったく見えてこないからである。見方をかえると、政府の効率化(?)のつけを民間企業が払わされる構図になっているのが大きな原因である。

人生80年の時代にあって、生涯不変で多目的利用のマイナンバーは、パスワードを頻繁に変えてハッカー、成りすましなどに対応する時代にはまったく合わない。今のような、宗教法人をはじめとして民間企業に、従業者本人や扶養家族のマイナンバーを脳天気に提出させる、あるいは不特定多数者にマイナンバーの提示を求める実務が問われている。民間企業にばら撒かれた国民のマイナンバーは次第に拡散し、じわじわと危なくなるであろう。法定利用期限が過ぎても「廃棄」されない膨大な数のマイナンバーが、年を重ねるに従い民間に「沈殿」して行く。これら沈殿した大量のマイナンバーは、何かをきっかけにネット空間に入り込み、悪用のみならず、成りすまし犯罪者天国をつくり出すツールとなるはずだ。アメリカや韓国が適例だ。

早急に、年末調整制度を見直すなどして、勤め先に扶養家族のマイナンバーを出さず、直接、税務署や年金機構などに出す仕組みに改めるべきである。

◆マイナポータルは血税浪費の公共工事

2002(平成24)年に、「住民基本台帳ネットワークシステム」(住基ネット)が導入された。住基ネットは、わが国初の国民総背番号構想である。政府は、国民全員に「住民票コード」という11ケタの背番号を振り、IC仕様の「住基カード」を持たせれば、電子政府(e-Gov)を実現できる、と大々的なPRをした。だが、結局、大失敗。住基カードも廃止される。これまで初期投資に3000億円、メルトダウンした住基ネットのその後の運営費だけで年120億円もの血税の支出が続く。

そして、今度は、国民全員に漏れなく12ケタの「マイナンバー」という背番号を振り、IC仕様のマイナンバーカードを持たせれば、マイナポータル(電子政府)が実現できるとぶち上げた。うたい文句は、「マイナンバーを活用して、他機関と情報連携を行い、定期報告の添付書類など皆さまの負担が軽減され利便性が向上します」である。

政府は、当初、マイナポータルを17(同29)年1月から稼働させる予定であったが、延期になった。マイナンバーカードがあり、パスワードの設定ができれば、マイナポータルサイトにログイン(アクセス)して、各種電子申請ができるようになるとのPRは早、視界不良である。血税浪費の公共工事の臭いがプンプンしてきている。

◆時代遅れのマイナンバーカードは要らない

今年1月のマイナンバー制度稼動後、マイナンバーカード・システムの不具合が相次ぎ、ICカード交付も頓挫の連続である。システムを管理運営する特殊法人「地方公共団体情報システム機構(J-LIS/ジェーリス)への風当たりが強い。だが、問題の根源は、ジェーリスではなく、1億3千万人にも及ぶわが国の人口規模にある。こうした国で、全員にマイナンバーカードを持たせようとする発想自体に“落とし穴”がある。

政府は、国民全員に、マイナンバーカードを、実質「国民登録証カード」「国内パスポート」として常に持ち歩かせようと画策している。この悪巧みが裏目に出て、国民の多くは、顔写真、入れ墨のような生涯不変の12ケタのマイナンバーが片面に記載され、紛失したら超危ない“電子証明書/電子印鑑”カードの取得に消極的である。

わが国の電子政府モデル(マイナポータル)は、パソコン(PC)があり、マイナンバーカードとICカードリーダーがないと、サイトにログイン(アクセス)できない仕組みである。だが、スマホやタブレット端末を頻繁に持ち歩く時代である。PCだけしか対応できないマイナポータルは、明らかに時代遅れ。ガラパゴス化も時間の問題だ。

マイナポータルでマイナンバーカードを利用するといってはいるが、実はマイナンバー自体を利用するわけではない。むしろ、マイナンバーカードに登載された電子証明書(電子印鑑機能/公的個人認証/PKI)を使った、成りすましの防止、安全なログインがねらいだ。

世界を見渡すと、今や、ICカードやカードリーダーを使わない電子政府モデルが主流である。データセキュリティーには、現在ネットバンキングなどで活用されている「ワンタイムパスワード」を使っている。また、電子政府サイトへのログインには、ICカードに登載された電子証明書ではなく、「パスワード+3つのQ&A」などを使っている。オーストラリアの電子政府(myGov)はそうしたデザインになっている。

国民全員、1億3千万のICカードの発行など、どだい不可能である。思い切って「マイナンバーカードの廃止」に舵を切ってはどうか。わが国のマイナポータルを、ICカードを使わないでログインできる仕組みに変えるべきだ。仮に電子証明書/電子印鑑を存続させたいのであれば、ジェーリスから切り離し、各自治体、各種民間の認証機関が発行したものを活用すればよい。でないと、マイナポータルは、利便性が悪く、3000億円もの血税を注ぎ込んだあげく大失敗した住基ネット(住民票コード、住基カード)の二の舞になるは必至である。IT利権優先、血税浪費のマイナンバーカードは要らない。