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近代の墓地行政と宗教法人墓地 ― 近代日本の宗教≪4≫

愛媛大教授 竹内康博氏

2017年2月22日付 中外日報(論)

たけうち・やすひろ氏=1954年、愛知県生まれ。80年、早稲田大大学院法学研究科博士前期課程修了。中京学院大経営学部専任講師・助教授を経て、2000年4月から愛媛大法文学部教授。宗教法学会理事。

⑴布告・達の時代の墓地行政

わが国では、幕末から明治初期の時点においても個人墓地、同族墓地、集落墓地、寺院墓地などの様々な形態の墓地が各地に存在していたが、これらの墓地には、近代法的な意味での「私有」という考え方が極めて希薄で、葬祭の習俗的規制と同様、その地方の慣習的規制に委ねられていた。

このような状況の中で明治以降、墓地ないし埋葬に関する法令が出されたが、それらは次の二つの特色を有していた。第一は、行政的取締法規として、主として衛生および都市行政管理の見地から墓地埋葬に関して規制したものであり、第二は、租税徴収の目的から、墓地使用についての従来の曖昧かつ不明確な墓地共同体としての規制をはずし、これを官有地・公有地・民有地に区分しつつ近代法的な規制を加えようとしたものである。

その中で、宗教法人墓地に大きな影響を与えたものが、以下の法令である。

①社寺領上知(地)令

太政官 第4 明治4辛未年正月5日(布)

諸国社寺由緒ノ有無ニ不拘朱印地除地等従前之通被下置候処各版籍奉還之末社寺ノミ土地人民私有ノ姿ニ相成不相当ノ事ニ付今度社寺領現在ノ境内ヲ除ノ外一般上知被仰付追テ相当禄制被相定更ニ廩米ヲ以テ可下賜事

この布告は、諸大名が明治政府に版籍奉還を行ったことに伴い、社寺領のうち「現在の境内地」を除いて上知するというものであった。ここで問題となったのが寺院の境内墓地である。実際の上知処分は各地方の担当者に委ねられたため、「境内地」の解釈が異なり、寺院に隣接する墓地であっても官有地とされた例が数多く見られた。

他方、上知処分を免れるために当時の檀家総代や有力者の名義で地券の発行を受けた墓地もあった。

その後、社寺側からの強い要望もあり、「寺院等ニ無償ニテ貸付シアル国有財産ノ処分ニ関スル法律」(昭和14年4月8日法律第78号)が施行されたが、戦争の激化によって社寺への譲渡認定が行われなくなってしまった。戦後、日本国憲法の政教分離原則との関係から、再び問題となり「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年4月12日法律第53号)が施行され、これによって一応の解決が図られたが、地方公共団体が有する墓地の譲渡は十分に行われず、後に裁判にまで発展する墓地もあった。

②墓地設置禁止ニ関スル規則

明治6年10月23日太政官第355号達

従来猥ニ墓地ヲ設ケ候儀ハ不相成候処今般私有地ノ證券相渡候上ハ心得違ノ者モ難計ニ付耕地宅地ハ勿論林藪タリトモ許可ヲ得スシテ新ニ墓地ヲ設ケ或ハ区域ヲ取広ケ候儀可令禁止就テハ忽墓地差支候郷村モ可有之候条管下諸寺院境内ヲ始其永久墓地ニ定ムヘキ場所取調図面ヲ副ヘ大蔵省ヘ可伺出此旨相達候事

この達により、民有地であっても墓地の新設はもとより、墓地の拡張にも官庁の許可が必要となった。「管下諸寺院境内ヲ始」とあるように、寺院境内墓地も「永久墓地」として認められることになったが、被葬者を寺院墓地の特色である自宗派の檀信徒に限るのかどうかは、定かではない。

③墓地埋葬取締規則(抄)

明治17年10月4日太政官第25号布達

第1条 墓地及火葬場ハ管轄庁ヨリ許可シタル区域ニ限ルモノトス

第2条 墓地及火葬場ハ総テ所轄警察署ノ取締ヲ受クヘキモノトス

第4条 区長若クハ戸長ノ認許證ヲ得ルニ非サレハ埋葬又ハ火葬ヲナスコトヲ得ス

但改葬ヲナサントスル者ハ所轄警察署ノ許可ヲ受クヘシ

第5条 墓地及火葬場ノ管理者ハ区長若クハ戸長ノ認許ヲ得タル者ニ非サレハ埋葬又ハ火葬ヲナサシムヘカラス又警察署ノ許可證ヲ得タル者ニ非サレハ改葬ヲナサシムヘカラス

第6条 葬儀ハ寺堂若クハ家屋構内又ハ墓地若クハ火葬場ニ於テ行フヘシ

第7条 凡ソ碑表ヲ建設セント欲スル者ハ所轄警察署ノ許可ヲ受クヘシ其許可ヲ得スシテ建設シタルモノハ之ヲ取除カシムヘシ

但墓地外ニ建設スルモノ亦之ニ準ス

第8条 此規則ヲ施行スル方法細則ハ警視総監、府知事(県令)ニ於テ便宜取設ケ内務「卿」ニ届出ツヘシ

この規則は、わが国における最初の体系的な墓地法である。ここで注目すべきは、墓地には管理者が置かれることになったことと、所轄警察署の取り締まりを受けるとされたことである。宗教団体法や宗教法人法が施行される前なので、寺院に法人格はなかったが、寺院墓地には管理者が置かれることになったので、大半の寺院墓地では住職がその任に当たったと思われる。なお、第4条では改葬についても、所轄警察署の許可で足りるとしているので、無縁墳墓の改葬についても、所轄警察署の許可があれば行うことができたわけであるが、その実際は不明である。

④墓地及埋葬取締規則施行細目標準(抄)

明治17年11月18日内務省乙第40号達 警視庁 府県

第1条 墓地ハ従前許可セラレタルモノニ限ル

但已ムヲ得サル事情アリテ之ヲ取広メ又ハ新設スル場合ニ於テハ地方庁ニ願出ヘシ

第2条 墓地ヲ新設スルハ国道県道鉄道大川ニ沿ハス人家ヲ隔ルコト凡ソ六十間以上ニシテ土地高燥飲用水ニ障ナキ地ヲ選ムヘシ

第3条 墓地ハ種族宗旨ヲ別タス其町村ニ本籍ヲ有シ若クハ其町村ニ於テ死シタルモノハ何人ニテモ之ニ葬ルコトヲ得其従前別段ノ慣習アルモノハ此限ニアラス

第9条 墓地火葬場ニハ必ス管理者ヲ置キ其姓名ハ区役所又ハ戸長役場ニ届ケ置クヘシ

この達により、墓地の拡張及び新設の許可権が地方庁に移譲された。そこで、各府県は、各々墓地の拡張及び新設に関する規則並びに警察上の取締規則を定めた。

また、この達は、墓地を原則として共葬墓地としたが、「従前別段ノ慣習アルモノハ此限ニアラス」としているので、この時点でも非共葬墓地(寺院墓地のように自宗派の檀信徒に限る墓地)を認めていたと考えられる。

⑵墓地、埋葬等に関する法律と宗教法人墓地

この法律の制定については、昭和23年5月26、28日に開催された衆議院厚生委員会と5月27、28、31日に開催された参議院厚生委員会において審議・可決され、昭和23年5月31日法律第48号として公布、施行された。

以下は、その際の議案提出説明の要約である。

――これまで、墓地、納骨堂または火葬場の管理、埋葬、火葬等に関しては、「墓地及埋葬取締規則」、「墓地及埋葬取締規則に違背する者処分方」、「埋火葬の認許等に関する件」の規則によって規制されてきた。しかし、日本国憲法の施行にともない、必要な改廃の措置をとらなければならないことになり、前掲三つの規則を総合した本法律案を提出した――

審議の結果、現在の「墓地、埋葬等に関する法律」が制定された。以下は宗教法人墓地にとって特に重要と思われる条文である。

第10条 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。

第12条 墓地、納骨堂又は火葬場の経営者は、管理者を置き、管理者の本籍、住所及び氏名を、墓地、納骨堂又は火葬場所在地の市町村長に届け出なければならない。

第13条 墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当な理由がなければこれを拒んではならない。

宗教法人墓地においては、法人が墓地経営者となり、一般的には代表役員が管理者となって当該墓地の管理・運営にあたっている。

なお、第13条の「正当な理由」に関して、寺院側は異宗派の檀信徒からの埋葬蔵を拒むことはできないが、埋葬蔵を依頼する者は、寺院側が行う儀式・典礼を拒むことは許されないとされている(津地裁判決昭和38年6月21日)。