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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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被災地福島の子どもたちは今 ― 大人は小さな声受け止めよう

曹洞宗復興支援室分室主事・チャイルドラインふくしま事務局長兼理事 久間泰弘氏

2017年3月10日付 中外日報(論)

きゅうま・たいこう氏=1970年生まれ。曹洞宗龍徳寺(福島県伊達市)住職。駒澤大仏教学部卒。全国曹洞宗青年会18期会長。2013年5月から曹洞宗復興支援室分室主事。18歳までの電話窓口「チャイルドラインふくしま」事務局長兼理事。14年9月から精神対話士としても活動。
1、震災・原発事故の影響を受ける子どもたち

東日本大震災から6年を迎えようとしている被災地では、仮設住宅から災害公営住宅などへの居住空間の移動が進んでおり、一見して復興は順調に進んでいるように思えます。しかし、被災者、特に子どもたちの心は、その速度に順応できているでしょうか。

福島県の子ども避難者数は現在も2万430人(県外9252人、県内1万1178人=2016年10月1日現在 福島県データ)を数えており、震災前の生活には戻れていません。これまでも、放射線による外部被ばく防護のための屋外活動の時間制限や内部被ばくの心配により、子どもたちの体力低下とストレス増加が指摘されてきました。また、指定・自主避難の家族形態は母子避難が多く、ある意味、母子という最も密接かつ最も閉じられた関係性の中で、勝手の違う土地での生活に、母子ともに生活上の困難・ストレスを抱えています。

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが14年から実施した被災地の虐待調査では、福島県においてグレーゾーン(不適切な養育に関する状況)やレッドゾーン(外部介入が必要な状況)ケースが増加しているとの報告がなされました。さらに、被災地では震災後に一人親世帯が増えて家計的に厳しくなったことから、高校生なども生活費を稼がなくてはならなくなっている家庭も少なくありません。このような理由から、震災後では物理的に子どもが一人で過ごす時間が増加しているために、不適切な出会いなど様々なリスクに遭う可能性も大きくなっています。

2、チャイルドラインから見える子どもたちの状況

チャイルドラインは、子どもの権利条約第3条「子どもの最善の利益」を最大理念にした傾聴による18歳までの子ども専用電話(ヘルプライン)で、子どもたちの声を受け止めることによって、心の居場所を実現すべく活動をしています。現在は40都道府県70団体で全国フリーダイヤルで実施されています。

震災時、福島県内にチャイルドラインは未開設でしたが、その後に震災不安や避難ストレスなどの影響を受けている子どもたちを憂慮し、12年に郡山市、13年に福島市で電話窓口を開設しました。

その活動データとして、14年度には福島県の子どもたちからの電話発信件数が2万3070件でした。これは愛知、東京、大阪などの大都市に次ぐ全国7位の多さで、震災以前と比較して4倍以上にもなっており、1日(16時~21時の5時間)にすると約64本もの電話がかかってきている計算になります。

福島県の子どもたちからの電話内容は、全国の子どもたちと比べても、人間関係やいじめが突出して多くなっており、11年度~12年度には男子のいじめが全国比5倍となりました。また、震災後3年目からは男子の進路・将来・学びについて全国比5倍、女子は自傷自殺・妊娠・性感染症について全国比10倍、さらに15年度には虐待についての話題も増加し、ますます子どもたちの身心が心配されています。

これらは、長引く避難生活や収束していない原発事故による閉塞感などの影響が大きく、大人や社会全体が感じている日常のマイナス感情に子どもたちが敏感に反応しているものと考えられています。以下に、チャイルドラインに寄せられた子どもたちの声をいくつか紹介します。

〈被災地の子どもの声〉

・震災後、お金のかからない専門学校を選んで受かりました。親も喜んでいます……。地元は職のない人や働けない人もたくさんいて、何だか落ち着きません。

・今、仮設に家族4人で住んでいるけど、狭くて息が詰まる。はじめは、家族が助かっただけでも良かったって思ったけど、こんな生活、いつまで続くんだろう。お父さんの会社も建物が流されて大変そうだし、高校に行けるのかな……このごろ夜よく眠れなくて、時々あの時のことを思い出すんだ。本当につらい。

・両親に暴力を受けています。児童相談所と副担任に相談しても変わらず、警察に相談したら親身に対応してくれました。地震で大変な時なのに、助け合うのではなく暴力を受ける。本当に悲しい。

・高校が原発の近くで立ち入り禁止になりました。将来、自分はどうなっていくのか。不幸になりたくて生きているわけではないのに。

・埼玉の親戚の家に避難してきました。嫌なことがあって、「どこから来たの」って聞かれるの。言いたくないけど仕方がないから、「福島だ」って言うと、放射能うつるって言われました。福島に帰りたいな。でも駄目だよね。

16年11月には福島から横浜市に避難している子どもが、放射能や賠償金の話題によって大変ないじめ・恐喝にあっていたことが判明し、その後も各地で福島県から避難した子どもたちの原発・放射能に関するいじめが報道されるようになりました。大人や社会全体では忘れ去られようとしている震災・原発事故が、子どもたちの世界ではいまだに現在進行形だったのだ、ということを思い知らされた事件でした。

このことからも震災以降、身の回りに言うことができない何かを胸の内に抱えている子どもたちが大勢いるということが想像されます。これからも困っている子どもたちの気持ちを受け止め、その心を少しでも癒やしていけるように活動していかなければならないと強く感じています。

3、今後の私たちにできること~子どもを傷つけずに寄り添うために

今回の東日本大震災は、広域に被害をもたらした地震・津波・原発事故の複合的大災害であり、これまでの災害に比して「こころの復興」が遅いとの指摘は、被災地支援に携わる人間にとっての共通言語になっています。

そのような中、今後の支援活動で私たちには何ができるのでしょうか。それは、子どもたちを不要に傷つけない対応・配慮だと考えられます。私は、これまでの復興支援活動において、支援するはずの行動がかえって相手を傷つけてしまうということを目の当たりにするたびに、苦悩を抱える人の隣人でありたい私たちも、相手を尊重するのに必要な基本的な知識と心構えを身に付けていく重要性を実感してきました。

災害時において子どもを傷つけることなく寄り添うために私たち大人が知っておくべきことに、トラウマケア、グリーフケア、PFA(心理的応急処置)などがありますが、その前提にあるものとして子どもの権利条約やアタッチメント理論(愛情・愛着)があげられるでしょう。

災害などの大きなショックで、自己効力感や自尊感情が低下してしまう子どもたちは少なくありません。そういった子どもたちの回復に何よりも大切なのは、自分自身(存在や意見)を認めてもらえることなのです。

例えば、子どもの権利条約第12条「意見表明権」には、大人や社会は子どもたちの意見に対し誠意を持って聴き受け止めることとあります。これは大人が子どもを社会をつくる対等のパートナーとして尊重し認めていく、ということを意味しています。

また、アタッチメント理論では、子どもは自分らしさ、自分の可能性を様々模索する「自由」と、どんな結果になろうとも、無条件に抱えられる「安心」を大人・社会に保障されることによって、初めて人生に対する思い切ったチャレンジが可能となり、成功するとき「自信」を得て、自立(自律)の階段を上がり始めるとされています。無条件に抱えられるという経験が、自己効力感や自尊感情を回復するのです。さらには補償感情(相手を思いやる心情)を育むことで自制心を高め、責任ある行動を可能にしていくのです。子どもの心の回復や健やかな育ちの実現は、他者に受け止められる経験から育まれ、大人との間に築かれる人間関係の“質”に関わってくると言えるでしょう。

被災地の子どもたちは今、時間の経過とともに震災のことを話せなくなってきています。なぜ話せなくなってきているのでしょうか。それは既述したように、子どもたちの周辺に、小さな、しかし確かな声や気持ちを聴いて、受け止めてくれる大人や社会が不足しているからではないでしょうか。子どもたちの心の復興には、予算や建物だけでは十分とは言えないのです。

今後の子どもたちの心の復興には、子ども支援の専門家をはじめとして、行政・民間、そして地域社会全体での子どもに対する総合的支援がますます重要になってくるでしょう。震災2年目に、精神科医・斎藤環氏から発せられた「苦しんでいる人々に対しては、専門家だけではなく、早期になるべく多くのボランティアを含めた社会全体でのサポートが必要」という姿勢が広く要請されているのです。

確かに、私たち一人ひとり全てが「子ども支援」や「心のケア」の専門家とは限りません。しかし、私たちの周りには、何らかの問題を抱え苦悩している多くの子どもたちがいることも事実です。私たちは誰しもが苦悩を抱える人の隣人になり得ます。そして、その人々に寄り添える隣人になれると信じています。