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リプロダクティブ・ヘルス/ライツ

家族計画研究センター所長 北村邦夫氏

2018年7月27日付 中外日報(論)

きたむら・くにお氏=1951年、群馬県生まれ。自治医科大卒。性に関する研究や診断、若者へのアドバイザー活動などに長年取り組み、現在は一般社団法人日本家族計画協会理事長、家族計画研究センター所長などを務める。著書に『カラダの本』『親と教師のための性教育講座』『ピル』など。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは

1990年、世界保健機関(WHO)の産婦人科医であるファタラが、女性の健康という視点を強調しながら、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下、RHR)を次のように定義して提唱しました。

「RHRとは、生殖の過程に単に病気や異常が存在しないだけではなく、生殖の過程が身体的、精神的および社会的に完全に良好な状態(well-being)で遂行されること」

生殖の過程の第一段階である「恋愛」や「性交」が完全に良好な状態で遂行されるとは、お互いが合意の上で、性交の次に起こる可能性のある妊娠や性感染症などに対しても責任がとれることを意味しています。しかし、最近日本の若者は「セックス嫌い」であるという驚くべき調査結果が国内外で注目を集めています。

日本家族計画協会が2002年から2年ごとに実施している「男女の生活と意識に関する調査」。日本人の性意識・性行動を知る数少ない調査の一つです。16年に実施した第8回の調査結果では、18~34歳の未婚男女のうち、性交経験のない者が、男性の42%、女性の46%いることがわかりました。

セックスレス化現象は、おじさん・おばさんどころか若者たちの世界にも広く、深く進行しているのです。10代後半~20代といえば、あの手この手で異性との関わりに執着していた自分と照らして、あまりにも大きな変化に驚きを禁じ得ませんでした。この現象を「草食化」、もう一歩進めて「絶食化」とでもいうのでしょうか。

事実は、性行動の二極化が進んでいて、性行動の活発なグループと消極的なグループがあって、草食とは後者を総じて言っているようです。心配なのは、異性に限らず他人とのコミュニケーションを面倒だと感じてしまっている点です。これではわが国の未来に暗雲が立ち込めているように思われて仕方ありません。その一方で、セックスが行われる限り、RHRを脅かす計画していない妊娠やエイズを含む性感染症に直面する危険性をはらんでいます。

男は逃げられる、女は逃げられない

私のクリニックを訪れた高校2年生は妊娠3カ月。相手の男性は大学生でした。付き合い始めて1カ月で別れたといいます。妊娠という重荷を背負い込んでいることには気づかずに……。選択肢が中絶しかないことははっきりしていましたが、彼との連絡は途絶えたままでした。数日後、目を泣きはらしやってきた彼女。2カ月ぶりの彼との再会は散々たるものでした。妊娠していることを告げると、「俺の子だって証拠があるのか」「おまえが俺以外の男とセックスしていない証拠があるか」と返されたそうです。

このような事例に接しながらいつも思うことは「男は逃げられる、女は逃げられない」というのが妊娠の厳然たる事実だということです。確かにセックスは対等な関係の中で営まれるべきものでしょう。だから避妊についても、男女ともに応分の責任を負うのは当然のことかもしれません。

前述の調査結果によれば、避妊している人の82%がコンドーム、19・5%が膣外射精と回答しています。経口避妊薬(ピル)を含む女性ホルモン剤は4・2%に過ぎません。

「妊娠するのは私、避妊するのはあなた」とばかりに、男性に身を任せていて、本当にいいセックスができるとは思えません。二人の間で、どのような避妊法が選択されようと、その結果である妊娠、中絶、出産、多少の男性参加が期待できるとはいえ育児についてもそれを引き受けるのは、紛れもなく女性だということをどう捉えたらよいのでしょうか。

仕事柄、水子供養寺でひとときを過ごすことがあります。年老いた女性がひざまずき、花を手向けながら涙している姿を遠目に見ながら、「もういいよ。十分だよ」と声を掛けたい気持ちを抑えることができません。

まだ成人にも達していない女性の姿を見かけることもあります。しかし、妊娠とは男性と女性の行為の結果であるにもかかわらず、残念なことに男性が手を合わせている姿を目撃することはありません。だからこそ女性には妊娠をもっと真剣に考えて欲しいのです。若者であれば、誰が何と言おうと低用量ピルを、妊娠経験があるならば子宮内避妊具やピルを避妊法の第一選択とし、さらにコンドームを併用して欲しいものです。

「セックスをするのはまだ早い」と戒めているわけではありません。自分の意思でそれを本当に望むのであれば、誰にも止めることはできません。しかし、「彼に嫌われたくなかった」という言葉に代表されるような主体性を失ったセックスだけは避けて欲しいものです。

妊娠・出産には限界があることを知らせよう

「結婚には適齢期はないけれど、妊娠・出産には限界がある」。最近、私のクリニックに受診している女性に頻繁に向けられる言葉です。今の仕事に就いてから早30年。当初は思春期外来を標榜し、中高校生が大勢集まるクリニックだったのに、その頃の患者がみんなオトナになって……。しかも、女性が取り組める確実な避妊法の代表である低用量ピルを手にした彼女らは、月経困難症の改善や周期調節が自在にできる魅力に取りつかれたのか、一向に服用をやめようとしないことに業を煮やした僕からの発言です。

非婚を決めたわけではないのに、結婚に対しては必ずしも積極的ではなく、近くで見ていると、カルテが分厚くなっていき、その分、年齢もかさんでいくことに一抹の不安を禁じ得ません。「だって、結婚すれば子どもなんて産めるのでしょう」と事もなげにおっしゃる姿が気になっています。

少子高齢化、晩婚化などいまだ日本人が経験したことのない時代を生きる我々にとって必要不可欠な知識くらいは折に触れて教え、学ぶことが大切ではないでしょうか。卵子は受精に不可欠ですが、胎生期に700万個近くあった原始卵胞(卵子のもと)は時間の経過とともに減少し、思春期には20万~30万個、40歳を超える頃には5千個を割るなど、顕著に減少していくことを知る人は意外と少ないものです。

言い換えれば卵子は日々老化(?)し、その数を減らしていくのです。だから、40歳を超えるとなると妊娠はとても難しく、仮に妊娠・出産に至ることがあっても染色体異常などが起こりやすくなります。生活習慣病とも言われる糖尿病、高血圧、高脂血症なども妊娠合併症としては看過できません。

最後に

RHRとは「男女を問わず良好な人間関係の中で、エイズや性感染症の恐れなしに性的関係を営むことができ、産みたいときには産めるように、産めないのであれば確実な避妊を行うことができる」ことと要約できます。

性や生殖をめぐる問題を公に語ることは難しいことですが、そこにも人間の生の本質に関わる重要な課題が横たわっています。本稿が人々の苦に向き合う宗教者の皆様にそんなことを考える一助になれたら幸いです。